バルトラの成長Ⅱ

 


 魔導の真理マギアスを学んだ次の日。

 バルトラは早速、自分だけの魔導機を作るため設計図を起こし、それに必要な素材をリストアップしていた___が、とても悩んでいた。



「うーむ。どうしようかな……」

「どうされたんですか?バルトラ様?」


 その様子を見兼ねた、バルトラの専属侍女であるライラが訪ねる。


「いやー、自分だけの魔導機を作りたいから設計図に起こそうとしたんだけど。

 アイデアが浮かばないんだよねー」

「なるほど……。バルトラ様はどんな用途で使いたいとお考えなのですか?」


 ライラはバルトラ程の知識を持ってはいないが、自分に出来ることを捻り出そうと聞き出す。


「そうだな……。俺は学園を卒業したら戦闘士になりたいから、武器がいいかも。

 どーせなら魔導化されてないやつとか。

 あ、そういえば、ライラのお父さんって警備の仕事関連の人だったよね?」

「えぇ、そうですけど……。それが何か?」


 ライラは公爵家に子供が生まれると開催される侍女決めの選考を勝ち上がった人物であり、採用条件には護衛能力を含め様々なスキルが問われる。



「いや、警備って大体護衛の仕事がほとんどだと思うからさ。

 なにかその中でまだ魔導化されてないものはないかなーと思ってね」


 彼女の父は要人の警護や遠出の際の護衛の斡旋を請け負っており、その職業柄魔導化されたものは必需品となっているのだ。


「うーん、そうですねぇ……。

 基本は鎧も剣も魔導化されているのでいらないですし……。

 あっ、確か槍は魔導化されていないはずです。槍を使う人が少ないって言ってました!」


 ライラから大事な事を聞けたバルトラは、彼女の肩を掴みブンブンと揺らす。


「あ〜〜。ちょっとこれ以上はーー!」

「それだーー!

 ありがとうライラ!これで作れそうだ!

 さすが僕のライラだね!」



 唐突に飛び出した愛の告白(?)に、ライラは顔をボンッ!っと赤くする。

「そっ//そんな急に……。私は従者ですから…//」


 最後は早口でぼそぼそと言うライラだが、バルトラには生憎聞こえておらず、なにも気づいていないようだった。


「ん?何が急なの?」

「な//なんでもありません!」



 自分に全く興味が無いくせに、不意にドギマギさせる一言を言う主人に、彼女は心の中でキッ!と睨みを利かせる。

(またこの坊ちゃんは、さらっとそういうこといっちゃいますよねぇぇ!)



「ふーん。ま、いいや。さあさあ作っていこうか!」



 そんなことを知る由もないバルトラは、作るものが決まり、創作意欲が沸きに沸いて、その勢いのまま魔導工具マギ・ファクタを作図用のペンに変形させ紙に描き始めた。




 ~夕の刻~




 夕方になり、日も沈んで暮れてきた頃。

 ライラは作図したっきりで朝から出てこないバルトラを呼びに、部屋まで来ていた。


「バルトラ様、もうすぐ夕飯の時間ですよ。生きてますか?」


 コンコンと扉をノックするだけではいつも足りないため、ライラはいつもバルトラが噛みつきそうな言葉を加えている。



「……」「バルトラ様?」




 いつもなら返事が聞こえる所だが、今回は全くと言って良いほど返事がない。


(おかしい。いつもならうるせぇー!って声が聞こえるのに……)


「大丈夫ですかっ!バルトラ様っ!」



 どれだけ声を荒げても反応しないため、彼女は急いでドア開けようとするが、バルトラは集中したいときにはドアに鍵をかける癖があり、開けることができない。



「しょうがない!失礼しまっす!」



 バァァァン!と勢いよくドアを蹴ってこじ開ける。

 そしてライラの目に入ってきたのは____ベットに横たわったバルトラだった。



「バルトラ様っ!」



 バルトラに急いでかけよって体をゆすろうと近づくと、聞こえてきたのは気持ち良さそうな寝息だった。


「zzz……」


(はぁ、良かった。寝てただけなのね。

 おせっかいな坊ちゃまだこと。)



 ライラは安堵し居間へ戻ろうとしたが、大事な話があるとエランに言われていたことを思い出し、急いでバルトラをたたき起こしに戻った。





 ゆっくりとエランの部屋に入ってきたバルトラは、そのままゆっくりとした調子で部屋の椅子に座る。

「ふぁぁ……。

 それで、大事なお話というのは何なんですか?父さん」


 快眠の中起こされたためか、あくびをして寝ぼけた顔でバルトラは尋ねる。


「あぁ、実はお前にお見合いの話が来ている」

「まぁ!よかったじゃないですか!バルトラ様!」


 ライラ達侍女はお見合いの話に盛り上がるが、当のバルトラは寝ぼけた顔を一気に覚醒させ、嫌な顔をしていた。


「はぁ……。またですか父さん。

 前回僕はお見合いをしたくないってあれほど言いましたよね?」

「そうだな。5歳の時のお見合いだったか」

「そうですよ!あれは酷かった……!」

「あぁ、その日から1週間くらい父さんのことじじいって呼んでたな」

「はい!」

((かわいい反抗心だなおい))


 侍女たちは思わず声に出して突っ込みたくなった。

 そんな中、エランはやけに自信満々な顔をしていた。



「だが今回はしっかりとした相手を選んだぞ。前々回はお見合い相手に面と向かってブスって言ったからな、お前」

「うっ。それは、本当にブスだったから……」

 ついバルトラの本音が出てしまう。


「だとしてもそれは心にしまっておけ。今回は前までとは違う人物を連れてきた」


 父はそう言うが、やはり息子は気が乗らない。


「連れてきただけですか?だったらお断りしま「今回は!それに加えて私から報酬がある」


 食い気味にエランが重ねる。


「今回のお見合いを受けてくれるのなら、お前にアダマンタイト鉱石を欲しい分あげ「受けます。いや、受けさせてください!」


 やはり似たもの同士。こちらも食い気味であった。

(アハハ、流石は親子だわ……)



「よし、では明後日の10の時にここに来なさい。正装してくるんだぞ?」

「はい!父さん!」



 先ほどまでの面倒臭そうな顔が一転、キラキラした表情のバルトラであった。

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