エピソードⅠ~それぞれの時間~

バルトラの成長Ⅰ

 皇歴258年~魔導都市エンゲニス~


 父エランからアドバイスをもらって1ヶ月。

 バルトラは魔導の真理マギアスを教わろうと、父の部屋に来た。



「父さん、魔導の真理マギアスを教えて下さい!」


 約束の時まで自分は頑張ったんだと言わんばかりの視線をエランにぶつける。

 その眼差しを受け、エランは腕を組み深く考える。


(あれから1ヶ月。俺が見ていた限りでは大丈夫そうだが……確認しないとな)


 少し悩んだ後、いくつかの注意事項を伝えて魔導の真理マギアスを教えることにした。


「いいだろう。だが中途半端な知識で魔導の真理マギアスを行うな。

 この技術は人の心臓を作るようなもの。

 失敗して中途半端になれば魔導の力が弱まってしまうし、下手をすればお前は魔導の真理マギアス自体を使えなくなってしまうかもしれない。それでも大丈夫なんだな?」


(これで尻込みしてしまうようならば……)


 親としてはもちろん学んでほしい気持ちはあるが、それと同時に失敗の危険性を孕んでいることも知っていて欲しかった。

 だからこそ、エランは強い口調になっているのだ。



 尊敬する父からの強い言葉に、バルトラはつい息を呑む。

(失敗するのは怖い、けど……、やらないと始まらない!)


 だが、少年の心は揺るがない。


「……大丈夫。俺やるよ。

 魔導の真理マギアスさえ覚えればもう魔導機を作れるんだ。ここで諦めるなんて論外だよ」


 息子の強い覚悟を確認したエランは、ある場所に連れて行くことにした。


「……そうか。そこまで準備をしてきたのなら、魔導の真理マギアスを教えても大丈夫そうだ。

 よし、ついてこい」

「う、うん!」


 エンゲニスの中央に位置している公爵邸を抜け、数分歩いていく。



 ついた場所は、エランが管理している魔導機工場だった。

 バルトラからすれば、まだまだ関わることのない遠い場所だと思っていた場所だ。 

「父さん、ここ、魔導機工場だよね?どうしてここに?」


 さらに言えば、最初はてっきり理論的な物を教えてもらうものだと考えていたが、その予想は外れていた。


「いい質問だ、バルトラ。

 お前にはここで魔導の真理マギアスを実際に使ってもらう」


 父から突然提案された、何も知らない状態での実践。

 バルトラの頭の中は不安でいっぱいだった。


「えぇ!?ここでするの?理論的なもの全然習ってないんだけど……」


 それもそのはず。

 彼はこれまで魔導機に関することは、まず理論的に学んでから練習してきていたのである。

(理論を学ばずに魔導の真理マギアスなんて……。失敗しろって言ってるようなもんじゃないのか?)


 父の頭の中はどうなってんるんだと心の中で少し怒っていると、エランは諭すように語りかけた。


「安心しろバルトラ。魔導の真理マギアスとは、人間の心臓を作るような物と言ったが、この技術は理論的に確立されたものではない。抽象的に言えば、魔導機に思いをぶつけるということだな」


 思い。


 そんなこと考えたことが無かった。

(思いってなんだ?この魔導機を作りたい!って感じか?)


 一度自分の頭の中で"思い"を探してみるが、中々納得のいくものは見つからない。

「魔導機に思いをぶつけるなんてどうやってるのか分かんないよ」


 結局、バルトラは考えるのをやめた。


 その答え合わせをするように、エランは自身の考えをなるべく分かりやすいように言語化する。


「そうだな……。

 あえて具体的に言うなら、魔導機の部品の魔力使用量を考えるんだ。

 このパーツが使われているから器はこのくらいの大きさで、という感じにな」


 そのことを聞き、自分の中で燻っていた答えがパッと生まれた。

「なるほど!部品一つ一つの限界を理解して、それにあった魔力に耐えられる器を創るってことなんだね!」

「そういうことだ」

「ありがとう!父さん!やってみるよ」


 息子の疑問が解決したところを見計らい、エランは工場の中から黒鉄の立方体を持って来た。


「この物体には器が作られていない。

 今からこれに魔導の真理マギアスを行って、器を作ってみろ」

「これ、魔導工具マギ・ファクタだよね。一番簡単な奴って言われてる」

「そうだ。だが簡単だからと言って侮ってはいけないぞ。分かったな」

「うん。それじゃあ、やってみるよ」


 そう言うと同時に、黒鉄の箱に手を当て目を閉じる。

 少しすると、彼の手のひらに魔導陣が現れた。


(一番簡単な魔力回路って言っても、やっぱり魔力回路が複数あるな。

 でも魔導規格はそこまで大きくないし、魔導工具マギ・ファクタ本体の大きさと魔力の吸収率、伝導率を考えると……、このくらいだなっ!)


 バルトラが計算したものを具現化するように、魔導陣は強く光り輝く。


 そして目を開けると、自身の掌に5ジレ(約5cm)ほどのチップのようなものが作り出されていた。


(これ……、ここに入れるのかな)

 黒鉄の箱のくぼんだ部分にはめ込む。


 しかし何も変化が起こらない。

 失敗だったのだろうか。


 バルトラが不安に思ったその時、「箱を持ってみろ」とエランからのヒントが来る。


「う、うん」

 言われたとおり持ってみると黒鉄の箱が変形し、バルトラの腕にはまり、手甲のようになった。


「なんだこれ!手にはまった?!」

「それが魔導工具マギ・ファクタだ。

 器に魔力を入れた人間の腕に自動で装着される。

 魔導機を解体したいときにはハサミのような形にもなるし、何かをくっつけたいときには接着を手伝ってくれる便利な奴だ。

 これからはそいつと一緒に魔導機作りに励むといい。俺からの一人前になった証だ」



「すごい……。ありがとうございます!父さん!これで自分の魔導機が作れます!」



 その後公爵邸に戻ったバルトラは自室にもどり、さっそく魔導機の設計図作りに取り掛かった。








 一方、自室に着いたエランは扉を閉め、聞こえるか聞こえないかわからないくらいの小さな声でぼやいた。

「あいつは家に篭っちゃうだろうなぁ……。早く帰ってきてよぉアリスト……」



 うっかりそこを通りかかってしまい、この事を聞いてしまった侍女は____


(帰ってくると夜がうるさくなるわねぇ。シーツの替え足りるかしら……)



 これから訪れる長い長い夜をどう乗り切るか悩んでいた。

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