アルマの転機Ⅰ

 皇歴258年 魔術都市エンセリオン ~テラズド家~




 テラズド家に程近い場所にある、フォンセ大聖堂。


 そこには今、手を組み一生懸命に三神達に祈りを捧げる少女の姿があった。


「崇高なる三柱神よ、いついかなる時もわれらにお恵みをお与えになり、ありがとうございます____」

「朝から頑張っているね。アルマ」


 お祈りを言葉を言い終わったところを見計らい、父のイルマは感心した様子で彼女の元へやってきた。


「お父様!聞いてください!わたし、お母様に魔術を教わってから毎朝お祈りを捧げているんです!」


 父に褒められ、アルマはフフン!と胸を張って言う。


「本当かい?すごいじゃないか。そのまま続けていくといいよ」

「はい!お父様!」

「さぁ、お祈りの時間は終わったかい?

 ウルスの朝ご飯が冷めちゃうよ」

「はーい!」


 彼女の憧れであり尊敬する父に連れられ、アルマはテラズド家へと戻った。





 ~テラズド家~


「今日もお母様の料理は美味しい〜!!ごちそうさま!」

「あら。早いわね、アルマ」

「またお祈りに行くから!じゃあ行ってきまーす!」


 両親よりも早く朝食を食べ終えたアルマは、ドタバタとフォンセ大聖堂へと戻っていった。



 その一方。

 朝食を摂り終えたあと、イルマは話があると言い、ウルスを自室に呼び出した。


「入るわ……」

「さ、座って」


 愛娘がいる時には極力見せないようにしていた、どよんとした嫌な空気が、イルマの部屋にたちこめる。

 

「……ウルス。アルマには伝えていないのかい」


 彼女の顔が途端に曇りだす。


「いいえ……。あの子は素直でとてもいい子よ。

 今現実を教えるのはあまりにも可哀想だと思ってしまって……」

「しかし、魔術学院の入学試験で嫌でもわかってしまうことなんだよ。そうなればアルマは、」

「分かってる、分かってるわよ。けど……」



 2人の間に重苦しい空気が流れる。


(このままでは埒があかない。アルマに万が一バレてしまう方が一番心の傷が深くなってしまう)


 そう考えたイルマは、悩むウルスの手を取り提案した。


「じゃあ、アルマが9歳になるときに打ち明けよう……。

 ことを」

「…………。えぇ。そうね」




 少女の希望が打ち砕かれる日は、刻々と近づいていた。




 ~同時刻、アルマの自室~




 その頃アルマは残っていたお祈りを終え、自身の部屋に戻り魔術書を眺めていた。



「へぇー、火柱ファイラはエレシュキガル様が人類に火をもたらした時の様子を再現しているのね。

 詠唱は……、'彷徨える魔の力よ、今一度原初の力を体現せよ。'かぁ。

 覚えにくいけど、これを唱えないと魔術が使えるようにならないからね。頑張って覚えないと!」


 これから魔術をたくさん扱っている自分を想像して、さらに気が引き締まる。


 その時、不意にある事が気になった。


「でも、魔術ってどうやったら出るのかなぁ?お母さんは三神にいっぱいお祈りすれば大丈夫って言ってたけど」

 

 だが、その疑問は自分にはあってないようなもの。


「まぁいっか!まだ詠唱を唱えても使えないから、エレシュキガル様たちへのお祈りが足りないってことだよね!

 よーし、もっとお祈りするぞー!」


 憧れの母の言うことを信じ、彼女は決意した。


 ただひたすら、自分の夢を叶えるために。






 ~???~



 アルマがお祈りに行く様子を、魔術書を通して聞く者がいた。


「へぇ、おもしれぇ奴だな。

 テラズド家と言えば、聖職者の名門。

 だがこいつは……」


 その者は理解した。

 これは、悪い方向に転ぶ運命であると。


「なるほどなぁ。

 両親もひどいことするぜまったく」



 は掌の魔術書を宙に浮かべ、楽しそうに笑みを浮かべる。



「さぁ、この嬢ちゃんがどんな人生をたどるのか、見物だなぁ!」

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