プロローグⅡ~いずれ深淵をたどるもの~

 皇歴250年 魔術都市エンセリオン。


 ここに、一人の少女が生まれた。


「アルマ・テラズド、君の名前はアルマ・テラズドだ」






 ~皇歴258年~ テラズド家


「お母様、皇国の創世神話もっと知りたいです!」



 魔術都市エンセリオン。

 この場所の一角にある家の中で、母親に熱視線を注ぐ灰色の髪をした、碧眼の少女がいた。


 彼女の名はアルマ・テラズド。


 聖職者の一家に生まれた彼女は今、母のウルスから神話を教えてもらっている最中である。



「アルマ。今日はもうおしまい」

 彼女によく似た灰色の髪に、輝く琥珀色の瞳をした母、ウルスに止められたが、アルマはまだ引き下がろうとはしない。


「えー、じゃあ、1個だけ!

 1個だけ質問して良い?お願い!」


 ウルスは答えるか迷ったが、一つだけならと了承した。


「やったー!じゃあ質問!

 エレシュキガル様やほかの神様たちからもたらされるものって、食べ物とか以外に何かあるの?」


 ウルスは一瞬顔を曇らせたが、すぐに笑みを浮かべ直す。

「んー……。そうねぇ。

 もうアルマも8歳だし、魔術について教えてあげないとね」

「魔術?」

「そう、魔術。魔術っていうのは、女神様たちがこの大陸を作った時に使われた力を真似したものなの」


「わぁぁ!じゃあ、魔術を学べば女神さまたちになれるってこと?!すごーい!!」

「簡単に言えばそういうことね。

 でも魔術はだれでも使えるものではないのよ」

「えぇー?!そうなのー??」



 大好きな女神達になれる。そう思い喜びを爆発させていたが、ウルスの注意に、彼女は先ほどとは打って変わって凹んでしまう。

 その様子を見兼ねたウルスは、慌ててフォローを入れる。


「あ、安心して。魔術は女神様たちのことを信じれば信じるほど使えるようになるから」

「へぇー!じゃあお母様は女神さまたちのこといっぱい知ってるから、いっぱい魔術が使えるの?」


 ウルスは、目の前の希望に満ち溢れた少女に悟られることのないよう、精一杯の笑顔をつくる。


「ま、まぁそうね、普通の人よりは多く使えるわ」

「すごーい!」



 その後、ウルスは真面目な顔になり、

「でもね、アルマ。

 どれだけ女神さまたちを信仰していても魔術が使えないひとだっているの。そういう人たちのことも考えて、人前で魔術が使える、とかあんまり言わないようにね」


 と告げた。



「えぇーなんでー?!」



 すぐにでもお祈りに来ている人たちに言おうと考えていたアルマだったが、その考えは見透かされていた。



「そうしないとお母さんとの約束破ったーって、女神さまにばれて魔術が使えなくなっちゃうかもよ?」


 ウルスの一言はアルマにとって一番嫌なことだった。


「そ、それはダメ!わ、分かった。お祈りに来た人とか、魔術学院に行ってもあんまり自分のことは言わないようにする!」

「いい子ね、アルマは将来何になりたいの?」


 その質問に、アルマはキラキラした目で答える。

「私はね、お母様みたいに司教様になって、未開拓地域の人たちを助けに行くの!」


「まぁ!立派な心掛けね」

「そのためにお母様と一緒に毎日大聖堂に行ってるし、学校でやることも先にしてるもん!」


 ウルスがアルマの努力に感心していると、玄関が開く音がした。


「あっ、お父さんが帰ってきたわよ」

「おかえりなさい!お父様!」



 父はイルマ・テラズド。高位聖職者の一人である。



「ただいま、アルマ。お母さんのいうことは聞いてたかい?」

「うん!もう魔術のことも分かったよ!」

「本当かい?それはすごいね」

「そーだ!お父様の魔術について教えてよ!」



 アルマは教えてくれると思っていたが、イルマの返答は予想外だった。


「うーん、僕の魔術はアルマには難しすぎるから、アルマが10歳になった時、僕の出した課題をクリア出来たら教えてあげるよ」


「10才かぁ……。うん!頑張る!

 約束だからね!」


 先ほどと同じように駄々をこねようかとも考えたが、母が見ている手前、そんなことすれば神様たちに報告されてしまうため、アルマは抑える。

(こんなことで魔術が使えなくなっちゃうといけないからね!)




「よーし、今からもっともっと頑張って魔術を覚えていくぞー!」




 そこから、アルマは憧れの父や母のようになるために努力を重ねていく。






「もうすぐ、かな……」

「えぇ……」







 新たな扉が開かれる。



 〜魔術学院入学まで後2年〜

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