第2話『戦闘!ヒトガタ』

 まずは速攻、一番近く、また他の3体からも離れている1体を潰す。最悪なのは完全に起動したコイツらに囲まれること。どう見ても弱者を取り囲んで慈悲や驕りの感情を持つようには見えないからな。


 俺は背負っていた自分の武装、すなわち数多の魔物を屠ってきた魔槍【グレイファンズ】を確かめるように強く握り、素早くヒトガタの首(と思わしき部位)を貫かんと突き出した。しかし、


「なっ!?」


 空を割いて突き出された魔槍の先端は、装甲の薄い部分を狙ったにも関わらず、いともたやすく砕かれた。


「俺の...俺のグレイファンズゥーーー!!!」


 武器屋の特売で買った10本セットの最後の1本、グレイファンズがここまで容易に砕かれるとは、正直思っていなかった。


 でもよく考えれば騎士団の正規品でさえ無理だったのに安売りの槍でやれるわけないだろ。馬鹿なのかな?


 ──どうやら初めての死地を感じて自分でも気づかないうちに動揺していたらしい。ここは切り替えが重要だ。じゃなけりゃあふざけてるうちに、死ぬ。


 一瞬のうちに頭を切り替え、次の手を考える。


 まず、現状の俺に切れる手札を確認しよう。火水土風闇光6属性の初級魔法、その基礎中の基礎であるボール系統とそれらの混成魔法。食糧や燃料の入った背負い鞄、そして俺のナイスな体術とクールな思考。


 ──ダメだ。1体ならまだしも、4体を相手にする以上、今の手札では打開の可能性は万に一つもない。


 ではどうする。手札が足りない。


 足りないなら?



「『足せばいい』じゃあないか...」


 周囲には数体、動かないままの壊れたヒトガタが転がっている。その破損状態はよく見ると砕かれたというよりも『焼き切られた』ように見える。つまりコイツらは俺が起動する前に、どういう訳かお互いを壊しあっていたようだ。──その光る剣を振るって。


 狙うは光剣を持つヒトガタの手首の部分。そこらに落ちている光剣は使えるかどうかは不明なため、生きている光剣を利用する方が色々可能性があると考えた。


 ここまでの思考を、光剣を不恰好に振り回してくるヒトガタの攻撃を避けつつ進めた。起動したてだからか、あるいはどこか壊れているのかは分からんが、その動きはお粗末そのものと言っていい。少なくとも、コレに騎士隊が壊滅させられたとは考えにくい。俺にとっては幸運でしかないが。


 暴走するヒトガタの包囲からは容易く抜けられたが、追い詰められていることに変わりはない。それにこの先を考えれば、この4体は確実に処理すべきだろう。そうすると初撃で仕留められなかったのが響いてくる。後退しながら回避を続けるが、足元にも注意しなければならないし、前方にも警戒を怠ることもできない。


 そうしているうちに、壁際に追いやられた。前方10mから魔槍を砕いたヒトガタが光剣を振り回しながら奇妙な動きと音を立てて迫ってくる。そのすぐ後ろからも似たような動きで暴走する3体が追従してくる。


「水球、土球混成──『泥球』」


 その光剣が俺に届くまで10m、6m、2m──


 寸前、俺は跳び上がりながら壁を蹴り、16個の『泥球』を地面に叩きつける。泥に足を取られて勢いを殺しきれず、体勢を崩したところに、空中から即座に展開した20個の『風球』による押し込みを図った。


 4体は絡み合うように激突し、先頭のヒトガタは壁に光剣を取られたまま、背後から姿勢を崩した1体の攻撃を受け、右の胴から左足の半ばまで切断され、動かなくなっている。またもう1体が頭部の半分を焼き切られ再起不能になっていて、残りの2体のヒトガタも、ところどころに古い欠損と新しい焼け跡が見られ、動きが鈍くなったように思えた。


 ヒトガタたちを跳び越え、今度は追い詰める形にはなったが、欲を言えば今ので3体は自滅して欲しいところだった。わざわざ『風球』をそれぞれの手元を狙って打ったのだが、思ったようには動かなかった。


 ヘマを自省する暇もなく、体勢を整えた2体が同時にこちらに向かってくる。その動きは先ほどよりもさらに野蛮で、脚がやられているのか、まるで4足の獣のように追い縋ってくる。


 とはいえ油断はできない。突進する2体を前に、距離をとりつつ背負い鞄を投げ捨てる。これで多少身軽になれた。


「土球連射ァ!」


 距離を詰める2体に対し、全速で逃げながら『土球』を周囲に展開、連射する。しかしヒトガタは過敏なサイドステップでこれらを全て回避。なんだよ化け物かよこいつら...。


 再びヒトガタと急接近し、跳び越えてまた壁に戻ることを狙ったが、


「〒2・%833〆・%×5〆6965〜〜〜!!!」


 今度は泥がなかったからか、圧倒的な反応速度で空中に逃れた俺に飛びかかってきた。


「馬鹿め!俺の狙いはもとよりコレよ!」


 安全に壁際に戻るためには距離を取ることが絶対条件だった。そのためには2体を撒く必要があったわけだが、足止めの魔法は普通に撃っては当たらない。だからこそ、ヒトガタと俺の位置関係が逆になり、避けることのできない空中にあえて跳び出すことで必中かつ効率の良い距離を稼げる空間へ誘導した。


「吹っ飛べ!」


 風球を連射し、今度こそ命中。避ける術を持たないヒトガタ2体は、大きく吹っ飛び、俺との大きな距離ができた。


 俺は全速力で走った。背後は気にせず、ただ一点だけを考えて。


 そしてそこにたどり着いた時には、あれだけ離れていたヒトガタが、俺を切り裂かんと振りかぶっていた。



 『それ』を手に持ったとき俺は、牽制の時に撃っていた土球が無事に壊れたヒトガタの腕を吹き飛ばしていたことに喜び、人が持っても光が失われなかったことに安堵し、その異常な軽さに驚き、


「攻守交代だ」



 ───勝利を、確信した。

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