君が僕に。

さらに三日後。

僕は愉快な気持ちと不安な気持ち、半分ずつでまたあの公園に向かっていた。

そしていつものベンチに腰掛けて、君を待つ。

「おはようございます。」

「..あ!えっとおはようございます。」

どうしてか、君が急に現れると、僕はいつも声が出なくなる。

「この前の本、ありがとうございました。とっても面白くて感動しました。」

君が僕の手に本を乗せる。

「良かったです。僕こういう詩的な小説、好きなんですよ。」

「ふふ、私も好きです。」

その言葉に思わず胸の鼓動する速度が上がってしまう。

君にばれないように小さく深呼吸をし、胸の高ぶりを押さえつける。

誤魔化すように君に聞く。

「あの、そういえばお名前、伺ってもいいですか?」

「そういえば私の名前、言っていませんでしたね。」

君は口元に手を当てて、少し歯を出す。

「私の名前は、涼音すずねです」

「いい名前、ですね。」

「ありがとうございます。」

君の名前をこの時初めて知った。

涼音。イメージ通りのきれいな名前だった。

そして会話が途切れ数秒の沈黙が続いた。

して、君が口を開く。

「あなたの名前は?」

「僕は、遥人はるとです。」

「いい名前ですね。」

「どうも...ありがとう。」

「隣、座りますね。」

君はまた僕の隣に座る。

前より、数センチほど君と僕の距離が近くなった。

君が少し分厚い本を開き読み始める。

君の手に乗る本を眺めていると、「これ、気になりますか?」

と僕に気付いた君は言った。

「ああ、はい。」

「読んでみます?私、もうすぐ読み終わるので。」

「ちょっと気になります。いいんですか?」

「ええ。前貸して貰ったので、そのお礼です。」

「ありがとうございます。」

僕は君にはにかんだ。

君が僕に本を渡す。

僕は本を読み始める。

君を横目に見ると、ぼんやりと何かを眺めていた。

そして僕が本を二十ページほど読み進めた時、君が立ち上がった。

僕は君を見た後、軽く時計に意識を時刻は八時二十分だった。

「私、もうそろそろ行きますね。それはまた会った時に返してもらえれば大丈夫です。」

「わかりました。ありがとうございます。じゃあまた。」

「はい。また。」

君は花火のような笑顔を振りまいて満開まであと少しの桜のアーチの奥へ進んでいった。

僕は君に借りた本の一章第三節のあたりまで読み進め本を閉じた。

そして僕はだんだんと大きく体を広げる桜を見つめ、ベンチから立ち上がった。

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桜の雨に僕は濡れて。 日向 @HyugaY

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