出会い。
あのハイライトが更新されたのは、あのすれ違いから二日後の朝。
僕が家近くの公園のベンチで読書をしていた時だった。
本のページを一つ一つとめくり読んでいく。
"君のその美しい瞳に私の心は奪われた。そして.."
途中、何かの気配を感じ顔を上げた。そして僕は君と目が合った。
初めて深く見た君の顔は、クールでありながら暖かさも感じられた。
僕はいつのまにか落ち着きをどこかに置いてきてしまった。
声を出せずにいると「その本、好きなんですか?」と君が尋ねてきた。
僕は喋り始めるまでにかなりの時間を使って答えた。
「.....あ、そうなんですよ。えっと、良いですよね。これ。」
「はい。この小説、私も好きなんですよ。」
君が微笑んだ。小さな器から零れたその笑顔はとても優しかった。
「この小説、自然の表現方法がとっても素敵ですよね。」
「わかります!まるで世界が目の前にあるように感じられて、素敵ですよね。」
「はい。私も....。」
僕たちはその小説の話でいくらか盛り上がった。
ふと、君が近くの時計台を見る。僕もそれに意識を送る。
時計の短針は八と九の間を指していた。
「ごめんなさい。もう行かないと。」
君が慌てた顔で言う。
「大丈夫です。えっと、また会いましょう。」
「はい。」
君が少し焦りながらまた優しい笑顔を見せ、垂れ下がった小さな花弁と木の間を通り抜け、離れていった。
僕は君との別れに余韻を感じながら花芽を広げ始めた桜を見上げた。
少しの時間が経ったのち、ベンチから軽くなった腰を上げ、立ち上がる。
そして君とは反対の染井吉野の下へ、僕はゆっくりと歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます