第13話 救援
リンカたちが突入する少し前のこと。
ケラルは夜の養護施設を走り回っていた。引き連れているのは半泣きの男の子だ。
「せんせえ……」
「大丈夫。こっちに隠れていれば見つからないよ」
ケラルは重要な情報を知ったためにリンカへの電話を試みたのだが、職員に気がつかれてしまって電話を中断。
男の子はトイレに起きたときにケラルたちのやり取りを見てしまったため、ケラルと共に逃亡する事になった。
ケラルは物置の裏にあるスペースへと男の子を隠す。
「ここに隠れていなよ。明日の夕方までの我慢だ。そうしたら、先生のお友だちがみんなを助けに来てくれる」
「先生は?」
「先生にはやることがあるんだよ。いいね。ここでじっとしているんだよ」
ケラルは静かに移動する。
少し離れた場所に職員の男がいるのを発見した。
手には拳銃。真正面から立ち向かうのは無謀すぎる。
「おーいケラル。早くガキと一緒に出てこいよ。知らん顔してりゃよかったのに面倒事起こしやがって」
出て行けば自分は殺されるだろう。子どもは殺されなくとも、どこかへと連れて行かれる可能性は高い。
しかし、このままじっとしているわけにもいかない。子どもは他にも沢山いるのだから。
「お前がでてこねえなら、今寝ている他のガキ共が身代わりになるだけだぞ」
やはり卑怯な手を使ってくる。
ケラルは物陰に隠れながら男に接近。自分とは反対の方を向いた隙を狙って襲い掛かる。
「うおっ、ケラルめぇ!」
男に掴みかかったケラルはなんとかして男の片腕を封じる。
敵はこの男だけではない。拳銃を奪うか、せめて無力化しなければならないのだ。
男と揉み合ううちに拳銃が暴発する。銃声が響いたのはまずい。ここに他の職員も集まってしまう。
ケラルは必死に男にしがみつき、何度も殴りつける。
しかし、拳銃を封じることに意識を削ぎ過ぎたこともあってか、男を無力化することができない。
むしろ、男に殴られた拍子に体勢を崩して転倒してしまう。
「うあっ」
男は呼吸を荒げながら銃口をケラルに向けた。
「この野郎、なかなかやってくれるじゃね――っ」
言い終わる前に男がケラルの視界から消える。
何事かと思ってあたりを見ると、男は地面に叩きつけられていた。
そして叩きつけたのは他の誰でもないリンカである。
「やあ、約束より速いけど、良かったかな?」
リンカは男を腕で締め上げてダウンさせると、両腕を拘束した。
「リンカ、子どもたちが」
「ああ、軍警察が保護に向かっているところだ。うん? 信号弾だな。どうやら車両を呼ぶらしい」
待機させていた車両を呼ぶということは、制圧が完了したということだろう。職員の数が少なかったのも当然そうだが、夜間で子どもたちが一か所に集まって就寝していたのが幸いした。ここまで早く決着を着けられたのは子どもたちの安全面から見ても良い結果だった。
信号弾で呼ばれた車両が施設の敷地に入ったとき、ケラルは心臓の鼓動をはっきりと感じられた。
護衛の隊員がケラルの隠した男の子を車両に乗せる。
子どもたちは一足先に軍警察を経由して医療機関で身体の検査をする手筈になっているらしい。
リンカとケラルは子どもたちが全員無事であることを確認してから職員室へと入った。
まだ仕事は終わっていない。ケラル、リンカ、そして残った数人の隊員たちは施設の実態を示す証拠を探すために残るのだ。
彼らが施設を出るのはもう少し先になる。
子どもたちを送り届けた軍警察の車両が別の車両と共に追加の人員を乗せて戻って来たとき、リンカたちはようやく施設を出ることができた。
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