第10話 要請
ケラルと別れた後、リンカはマキアのいる駐車場へと向かった。
マキアは待っている間に車両をチェックしたらしい。幸いにも、不審物などはなかった。
養護施設からの帰路についたリンカとマキアは車内で今日の事を報告し合う。
マキアは子どもたちから聞いた「お医者さん」のことを話した。
「それは怪しい。というより、検診の名目で顧客が子どもたちを物色しているのかもしれないな」
リンカはマキアの想像したことをそのまま言葉に変換する。
助手が得た情報は有益な物だとリンカは思う。
「わたしの方は書簡の差出人と会えたよ。やはり子どもたちが売買されているらしいな。医者が来る日と売買の日、マキアの話と一致しているから、やはりこれは急がなければならないな」
リンカたちは一度内政省に戻り、情報を整理した。今回は軍警察の協力が不可欠であったからだ。
ケラルから預かったハンカチには折り畳まれた集合写真が隠されていた。ケラルが来たばかりの頃に撮られたものらしく、マキアが今日会っていない子どももいる。写真の裏には子どもたちの名前が書き連ねてあった。
ケラルはリンカの来訪を信じてこれをずっと持ち続けていたのだろう。
内務官の権限だけでは救援を取り付けるのが困難だと考え、リンカは執政官に報告の上、軍警察への出動要請を取り付ける。彼女は証拠としてケラルからの書簡、集合写真(現在いる子どもたちと照らし合わせて行方不明の子どもがいることを証明するため)、そして現在施設にいるケラルを保護できれば証人となることを説明した。
執政官はリンカの説明を受け直ちに軍警察に連絡。
軍警察はケラルの指定した時間を待たず、翌日の早朝に部隊を派遣できると約束してくれた。
なんとか救援を取り付けられたところで、リンカは執務室に戻る。
執務室にはマキアがいた。落ち着かない助手は白湯を何度も口に含んでは徐々に飲み込むという動作を繰り返している。
リンカはマキアを気遣って少しだけ明るい口調で声をかけた。
「もう終業時刻は過ぎているぞ。早く帰るんだな」
「リンカさんも帰られますか?」
「わたしは残る。翌朝にはこの件も解決するし、それまではここにいるつもりだ」
「それならあたしもここにいます。このまま帰っても、きっと眠れませんから……」
「わかったよ。わたしは仮眠をとるから、何かあったら遠慮なく起こしてくれ。むしろキミも寝ていいんだぞ」
リンカはマキアの気持ちがよくわかった。
ただ、あまり自分を追い込むような真似をしてほしくなかった。
リンカは椅子に座ると、瞼を閉じて過去を思い起こす。
――そういえば、わたしも初めての任務の前はあまり寝られなかったな。
そんなことを考えているうちに、リンカの意識は深い闇の底へと沈んでいった。
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