Ex2. 誕生日は愛しい櫻子と甘い時を
琴葉の誕生日記念のエピソードです。琴葉視点です。
今日は7月20日。私の誕生日で18歳になった。
去年、成年年齢を20歳から18歳に引き下げるという法律が成立したってニュースになって、私達も学校で説明をされた覚えがある。
でも実際には改正法は2022年4月から施行で、今は2019年、私が20歳になるのは2021年で改正法の施行前だから、結局私は従来通りに20歳で成年になるらしい。
まあ、それはどうでもいいや。
この7月20日。それは、1学期の終業式の日であり、同時に吹奏楽コンクール地区大会を目前に控えた追い込み期間の中の1日。
中学から毎年そうだから気にしてないし、部活では誕生日を祝ってもらえる。
千利からは、触るとひんやりするクジラのぬいぐるみを誕生日プレゼントにもらえた。接触冷感ってテレビのコマーシャルでやってるやつだね。ありがとう!
さて、お返しというか次の千利への誕生日プレゼントは何がいいかな……。付き合いが長いから最近ネタに困ってる。でも最近、勉強に疲れたって言ってたな。真面目だからね千利は。千利は10月生まれで、その頃には受験勉強も追い込みの頃だろうし、癒されるようなハーブティーとかにしてみようかな。近くなったら櫻子に相談してみよう。櫻子はハーブティーが好きで色々教えてくれるから。きっと千利は喜んでくれると思う。
話を戻そう。
私の誕生日、7月20日頃は毎年部活が忙しくて夏休みの宿題もあるから、のんびりとしていられない。
それでも。今日の私は部活が終わったら大急ぎで櫻子の家に向かう。
櫻子が2人で過ごしたいと家に誘ってくれたから。
4月の櫻子の誕生日の時も、櫻子の家で2人で過ごして、その時に櫻子は『貴女のお誕生日で、しっかりお返ししないとね。』って言ってたからきっとそういうことなんだと思う。
『終業式までに仕事が片付けば、もしかしたら定時よりも早く上がれるかもしれないわ。』
……そんなことを櫻子は言っていた。
そして今日。コンクール前の追い込みの時期とはいえ、やりすぎてバテてもいけないので練習はほどほど、いつも通りの時間、18時頃に終わった。
ひとまず学校を出て、周りに誰もいないのを確認してからスマートフォンを取り出しメールを確認する。
画面を誰かに、特に一番厄介なミタには絶対に見られないように死守!
『定時より前に帰れたから準備してるわ! でも焦らなくていいからゆっくり来て。』
『わかりました。さっき学校を出たので向かってます。』
いつもの感じだとだいたい18時半くらいかな。
光北駅に向かって、てくてくと歩いていく。
駅に着いたところでトイレに立ち寄り、制服から予め持ってきておいた薄手のワンピースに着替える。
暑くて汗がすごいから着替えたい、というのも一つだが一番の理由は、光北高校の制服姿で櫻子の家に近づかないため、である。
4月の櫻子の誕生日の頃は制服の上からウィンドブレーカーを着て誤魔化していたけれど、この真夏にそれはあまりにも辛いので、もう着替えてから行くことにしたのである。
さて、着替えは完了。鵜山駅へ向かおう。
電車にも無事乗れたので、櫻子に連絡する。
鵜山駅で電車を降りて、櫻子に連絡して、櫻子の家へてくてくと歩いていく。
ついた! インターホンを鳴らして。
「琴葉です。」
『はーい。』
櫻子が扉を開けてくれた。と同時に、甘い香りが私を出迎えてくれた。
もしかしてこれはケーキ焼いてる? え、まさか。櫻子の手作り?
「いらっしゃい、琴葉。……貴女の誕生日も、2人で過ごせて嬉しいわ。あがって?」
櫻子に促されてお部屋に上がる。
「櫻子。もしかしてこのいい匂いって……手作りのケーキですか?」
「そうよ。といっても、市販のスポンジケーキミックスをほぼそのまんま作ってるだけ、だけどね。昨日の時点でもうほとんどお仕事終わってて今日は早く帰れるようになったから、せっかくなら、と思って。」
「うれしいです! ありがとうございます!」
ピーッ、ピーッと機械音が響く。
「ケーキが焼けたわ! うふふ。上手く焼けたかしら。」
櫻子がオーブンを開けると、美味しそうなスポンジケーキが焼けていて、甘くて香ばしい香りが周りに満ちた。
「美味しそうです!」
「冷ましたらクリームとか果物とか載せるから。」
クリーム。櫻子の誕生日にこの部屋で私は櫻子にクリームをキスで口移しされた記憶がよみがえる。
甘くて美味しかったけれどもうびっくりして顔がものすごく火照って。
きっと私の顔は真っ赤だったと思う。
櫻子はいつもそうやって私を照れさせようとしてくるから、今日もきっと何かある気がしてならない。
と、少し前のことを思い出していると、私の舌をクリームまみれにした
「琴葉。お誕生日おめでとう。琴葉に誕生日プレゼントがあるの。……そうね。ソファーに座ってくれる?」
「? はい。」
促されるままにソファーに座る。なんだろう。
「じゃあ、私が良いって言うまで、目をつぶっててくれる?」
「はい。」
うーん、なんかありそう。
とりあえず、言われたとおりに目をつぶる。
すると、少し経って櫻子が隣に座ってきて、私の髪を優しく櫛で梳かし始めた。
!!
櫻子の手が首筋に当たってそわそわする。
櫻子はどうやら私の髪を結っているようで、私はどうやら髪に何か着けられたようだ。
そして、カラカラと金属の入れ物を開けるような音に続いて、あの甘いラベンダーの練り香水の香りが漂った。
そして、私の首筋が、おそらく練り香水の付いた櫻子の手で撫でられる。
「はうっ……。ううん……。あぅ……。」
声が出てしまう。目をつぶっているからか、嗅覚も、首筋に感じる感覚も研ぎ澄まされて、櫻子を強く感じてしまう。
「ふふ……可愛いわ。琴葉。……大好きよ。」
耳元で囁かれて、櫻子の甘い声と吐息がいよいよ私を蕩けさせる。
「あの……まだ、ですか……。」
もう、どきどきしてはちきれそう。
一体誰が知っているでしょう。
学校の授業では全然笑わない藤枝先生が、
「ふふ。もう目を開けていいわ。」
もううっとりしてしまっているのか、ゆっくりとしか
それでも頑張って目を開けると、目の前に鏡が置かれていて、それに映った私は髪を右手側で一つに結い上げていてその髪束には、若葉のように鮮やかな緑色と夏の海のように涼し気な青色の2色の透け感のある布で作られたシュシュが着けられていた。
「櫻子。このシュシュは。」
「誕生日プレゼントよ。クリスマスの初めてのデートの時にシュシュをプレゼントしたでしょ? あれが冬向きだったから、今度は夏向きのをプレゼントしたの。……どう?」
櫻子がまた選んでくれたシュシュ!
「可愛いです! また毎日着けますね! それと……首筋にあの練り香水塗ったりとか、耳元に囁いたりとかもしてましたよね。」
「よかったわ! 気に入ってもらえたみたいで! ……大好きな恋人ですもの。それにあの練り香水は貴女も好きでしょう?」
「そりゃあ、私もあの練り香水は大好きですよ! ……櫻子の香りだから。」
「うふふ。じゃあ次のプレゼントはあの練り香水かしら。」
「それも楽しみです。……櫻子とお揃いになれますもの。」
ようやく櫻子を少し照れさせられた。
「もう……。本当に琴葉は可愛いわ。さあて。そろそろケーキも冷めたころだし、準備してくるわね。……待ってて。」
そう言って櫻子は、私の額に軽くキスをしてからまたキッチンに行った。
もうっ! 櫻子はどこまで私を照れさせるつもりですか!
すぐに櫻子はケーキと、生クリームの入ったボウル、角切りにしたメロンの入った深皿を持って戻ってきた。
櫻子が長いヘラ(スクレーバーって言うらしい)でケーキに生クリームを塗って、メロンを載せていく。
メロンのショートケーキ!
「お待たせ! 苺は今手に入らないから、メロンにしてみたわ。……貴女には緑色が似合うもの。」
櫻子が、私の頭の右側を飾るシュシュを撫でる。もう、それだけで私はどきどきしてしまう。
「……櫻子。もう素敵すぎて、なんて言っていいかわからないです。ありがとうございます……! 嬉しい、です!」
「琴葉が喜んでくれたら、私はそれだけで幸せよ。……さあ、食べましょう?」
櫻子がメロンのショートケーキを切り分けてくれる。
「琴葉。誕生日おめでとう! はい、あーん……。」
櫻子が私にケーキを食べさせてくれる。
「ふふ。今度は私の誕生日のお返しよ。」
そう言って櫻子はまたケーキを食べさせてくれる。
お返し、ですか。
そうですね。こんなに櫻子からもらっちゃったんですもの。
私はめいっぱいクリームをほおばるとそのまま櫻子にキスをした。
ほんの少しの塩がお菓子の甘さをより引き立てるみたいに、私のほんの少しの悪戯心は、私と櫻子のキスをより一層甘くて溶けそうにしてくれた。
2人の唇にはクリームと、それと同じくらい甘い「好き」が溢れていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます