1.5. 和泉千利、藤枝先生を観察する

※千利視点です。


 私は和泉千利。琴葉とクラスは離れたが、あいつは上手くやっているだろうか。

 昨年は藤枝先生が現代文の担当だったが、今年は私のクラスでは引き続き現代文、琴葉のクラスでは古文を担当している。

 「はい、昨年から引き続きの人も多いと思うけれど。自己紹介ね。藤枝櫻子です。よろしくお願いします。今年は昨年よりも模試の回数が増えたり、受験に向けてストレスも増えたりするでしょうけれど、頑張りましょうね。私も、できる限りサポートしますので。」

 よろしくお願いします。と。

 早速授業が始まる。……何だろう。授業そのものは昨年とほぼ変わらないのに、なんだか藤枝先生から受ける印象が、ほんのわずかだけれど、昨年までと違うような気がする。

 昨年よりも、ほんのわずかだけれど、淡々としているというか。

 昨年はもっと、特に文化祭の後あたりから笑顔が増えたり、声色が気持ち明るくなっていたり、なんというか可愛くなっていったような気がする。

 それが今になってリセットされている。

 何故なのか。30分ほど授業を受けながら頭の片隅で考えていたが、なんだ、簡単なことだったじゃないか。

 このクラスには、“琴葉がいない”のだ。そりゃそうだ。琴葉は隣のクラスなんだから。

 ……良かったな、琴葉。愛されてるぞお前。

 授業のクオリティそのものは昨年から変わらずなのだが、微妙に、何かが違うのだ。

 教師である前に藤枝先生も一人の人間だから多少は気持ちや感情に振れ幅あるだろうとはいえ、そうか……。

 たぶん、琴葉のクラスでは昨年のような、ちょっと笑顔が多くて、ちょっと声色が高くて、ちょっと魅力的な藤枝先生になってるのだろう。

 藤枝先生も琴葉が大好きなんだな。良かったな、琴葉。

「さっきからニコニコしてるけれど、なにかいいことでもありましたか? 和泉さん。」

「なんでもありませんよ。授業楽しいなーってだけです。」

「あらまあ。ありがとう。」

 藤枝先生は笑い返してくれた。

 なにかいいこと、ですか。ありますよーそりゃ。

 先生と琴葉が仲良しなら、琴葉をずっと見守ってきた甲斐がありますからね!


 黒髪を揺らして黒板に綺麗な文字を書く藤枝先生の背中を見ながら、私は内心ガッツポーズをするのであった。

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