✏️特訓
モアイ像事件は、すぐに城中に広まった。
五日後にレッドベリーとマヤが決闘をすることは周知の事実となっていた。
翌日、マヤは城内にある広場で、アイルから魔法の特訓を受けていた。
最初に教わったのは、強化魔法だ。
体内の魔力を体の一部に送り、力を増幅させ、人並外れた身体能力を実現させる。
「では勇者様。今言った通りやってみて下さい」
「はい、えっと…」
マヤは、体内にうごめく大量の魔力をアイルに教わった通りに感知し、それを脚へ送った。
「そうです、そうです。ではそのまま飛び跳ねてみましょう」
「はい!」
じゃんぷ!
マヤが脚に力を入れ、精一杯踏み込むと、ピョーンと体が宙に浮いた。
(わあ、すごい…)
マヤの小さな体はどんどんと天高く登っていき、気付くと地面から三〇メートル程離れていた。
(すごい…高い…でもこれ………)
一定程度まで上がると、今度は急激な落下運動。
マヤの体は地面に向かって一直線に落下した。
「わわわわ、死ぬううう」
ひんっ…!と泣きながら胎児のように体を丸めた。
(人生終了しちゃううう)
地面に叩きつけられるかに思えたその時、マヤの体がぴたりと停止した。
「え…?」
マヤの体は青い炎に包まれ、地面スレスレの場所で浮いていた。
「僕が得意な炎魔法です」
ニコニコと優しい表情を浮かべるアイル。
マッチ棒を片手にマヤの前にしゃがみ込んだ。
「落ちて死ぬかと思いました…」
ひぃんと情けなく泣くマヤに、アイルはふふふと笑った。
「それにしても、さすがの魔力ですね。初めてなのにここまで脚力を強化出来るとは。調整が難しいな」
「ありがとう…ございます…?」
褒められてるんだよね、とマヤは心の中でと自問した。
「これだけ魔力が多いと制御も大変ですね。訓練あるのみです」
アイルは、ニコッと無邪気な笑みを浮かべた。
「一緒に頑張りましょう!」
「はい…」
落下運動の反動で、マヤの目は未だにクラクラと回る。
マヤが体の揺れを止めようと踏ん張ると、カキーンと何か小さな金属が落ちる音が聞こえた。
(なに…?)
音の方を見ると、アイルの真下に小さな金色の鍵のようなものが落ちていた。
「アイルさん、落し物…」
マヤがそれを拾おうと手を伸ばしたところで、突然アイルがその手首をがっと強く掴んだ。
「…? あの、鍵が落ちましたよ…」
「教えてくださってありがとうございます。自分で拾うので大丈夫ですよ」
「…はい」
普段からアイルは紳士風の穏やかな笑みを浮かべている。
だがこの時だけは何だか違った。
口元は笑っているが、目が、鋭く光っている。
マヤは不審に思いながら鍵を拾うアイルに尋ねた。
「その鍵、すごく大事なものなのですか?」
アイルは鍵を拾い懐に仕舞うと、ニコリといつもの笑顔に戻った。
「気になりますか?」
ーーファンタジーの世界。
ーー美少年魔術師が大事に持つ謎の鍵。
マヤの好奇心を刺激しないはずがない。
マヤはホクホクと頬を林檎のように赤く染めた。
「は、はい…すごく」
アイルはそれを聞くと、楽しそうに微笑した後、ぴとりと人差し指を口に付けて言った。
「そうですか。では六日後、悪魔を無事に倒せたら教えてあげますよ」
それから、魔法の特訓は夜まで続いた。
強化魔法に続き、魔力放出、防御魔法など、戦闘に使用する様々な魔法を教わった。
アイル曰く、マヤは魔力の量もさながら、魔法の才能も凄まじいく、呑み込みがかなり早いらしかった。
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