第101話 九尾の狐

玉藻前たまものまえ、変化。」


 巨大な狐から煙が発生し姿を眩ませた。

 炎鳥神フェニックスの羽ばたきで煙を払うとそこには10人に分身した西園寺玲が立っている。


玉藻前たまものまえ、九尾の狐として有名な妖怪じゃな。分身まで使うとは…西園寺め本気を出したのう。」


 10人の内、どれか1人が本物だ。

 攻撃を当てるのは困難になったがそれでも金城さんの優位には変わりない。

 なんせ西園寺さんには攻撃を届かせる手段がないのだから。


 金城さんも俺と同じことを思ったのか、分身を消すために広範囲に炎を放った。


「所詮は分身。炎を斬り裂けるのは1人だけ。

 それが本物です。」


 勝負あったな。このまま上空から攻め続ければ金城さんが勝つ。


 そう思っていると虎吉さんが不意に笑う。


「甘いのう。玉藻前たまものまえがその程度な訳がなかろう。

 あの分身には実体がある。あれは玉藻前たまものまえの尾一つ分の力を持った実体ある分身じゃ。幻覚とは訳が違う。

 そしてあの分身たちは——スキルを使える。」


 なんだと!!


 慌てて金城さんの方を見るが時すでに遅く、炎帝を放った後だった。


 マズイ——このままじゃやられる。


「両断:火炎斬り」


 分身の内5体が壁となり、炎を斬り裂く。

 広範囲に放った炎は全て斬り裂かれ、スキルを放った直後の金城さんは完全に無防備状態を晒してしまう。


「翼を貰う。一ノ太刀:一閃」


 2体の分身が上空へと飛び上がり、炎鳥神の両翼を奪う。


「しまった…」


 翼を斬られた炎鳥神フェニックスは飛行能力を失う。

 落下していく分身2体は身動きが取れないが、本体を含め残り3体は地上で落ちてくる金城さんに狙いを定めていた。


「これで終わり。一ノ太刀改:三閃」


 3人同時に放たれる一閃。

 2体は炎鳥神フェニックスの体を斬り裂き、最後の1人は金城さんの首元で刃を止めていた。


 後数センチ動けば斬れる。

 そんな神がかった技術の寸止めだ。


「…参りました。私の負けです。」


 金城さんは息を呑むと自身の敗北を認めた。

 その言葉を聞くと同時に分身は消え去り、喉元に添えられていた刀を鞘に納める。


「私の勝ち。約束通り、大人しく地上に戻って。」


 淡々とそう告げる西園寺。

 悔しそうに拳を握りながらも、何も言い返せない茉央は荷物を纏めようとした。


「待て待て。この子は連れて行ってもええじゃろ。実力も十分ある。それはお前さんもよくわかっておるじゃろう。

 この先どんなイレギュラーが起きるかもわからんのじゃ。人手は多いに越した事はない。」


「…彼女が想定より強かったのは認める。

 だけどこの先、イレギュラーが起こる可能性があるからこそ、彼女はここで地上に帰すべき。」


「う〜ん、意見は変わらんか。草介、お主はどうじゃ。彼女は置いていくべきだと思うか?」


 一同の視線が俺に集まる。


「俺は今まで彼女に何回も助けられてる。

 身の安全を優先するなら帰すべきだろうが、居てくれたら心強いのも事実だ。

 それに魔人は階層を移動出来る。

 彼女を1人で帰すとそれこそ危険な気がするから出来れば行動を共にしたい。」


「ふむ…危険はどの道付きものという訳じゃな。儂らにはない飛行能力も持っとるようだし、連れてってもええのではないか?」


 俺たち2人から擁護の声があり、西園寺は少しばつの悪そうな顔をする。

 彼女の答えを待っていると暫く経ってから小さな声でポツリと呟いた。


「……わかった。2人がそこまでいうのなら同行を認める。ただし、自分の身は自分で守れ。他人を頼ろうとするな。」


 冷たい言葉ではあるが彼女なりに認めてくれたのだろう。


 こうして俺たちは全員で6階層へと向かうことになった。


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