第100話 刀を使うキャラは人気になりがち

 刀を抜き、ゆったりとした足取りで茉央に近づく西園寺。


「……行きます。」


 次の瞬間、西園寺の姿が一瞬にして消えた。


「あれは…超加速か?それにしては早過ぎる様な…」


「超加速の進化スキル【神速】じゃよ。それプラス武術の縮地を使っておる。

 どんな生物でも必ず見失う不可視の移動。

 それによって出来る一瞬の隙を西園寺が見逃す筈もない。一撃で終わらせる気じゃな。」


 いつの間にか茉央の死角へと移動していた西園寺の刀が襲い掛かる。

 茉央は気付いたようだが、どう見ても間に合わない。勝負アリか…


 誰もが西園寺の勝利を確信したが、茉央だけは諦めていなかった。

 体に触れる寸前のところで炎の壁が剣を弾く。【覆い隠す焔フレイムヴェール】彼女の防御スキルだ。


「驚いた。まさかあれを防ぐとはのう。あのスキルは覆い隠す焔フレイムヴェールか。いいスキルを持っておる。」


 驚いているのは虎吉だけではないようで、西園寺も普段の無表情な顔が心無しか驚いているように見えた。


「今度は私から行きます。炎帝!」


 近距離戦は不利だと判断した茉央が遠距離から一気に攻める。茉央の判断は概ね正しい。

 格上の相手と不利な条件で戦って勝てる者などいる筈もない。

 だが、一つだけ誤算があるとしたら…それは西園寺玲と茉央の実力差はその程度の小細工で覆せるものではないという事だ。


「スキル両断:火炎斬り」


 西園寺の刀が輝き、炎目掛けてその刀を振るう。すると本来斬れるようなものではない炎が真っ二つに斬られてしまった。


「そんな…」


「スキル【秘剣】、一ノ太刀:一閃」


 遠く離れた場所に居た西園寺が一瞬にして茉央の背後へと移動している。

 刀を納める西園寺。

 すると茉央が前のめりに倒れた。


「勝負あったか。【両断】、指定したものを斬る事が出来るスキル。炎なんかの魔法にも有効じゃ。

 そして【秘剣】、7つの剣術スキル。その内の1つ、一ノ太刀:一閃。光の如き速さで移動し敵を斬るスキル。峰打ちとはいえそれなりにダメージは負っている筈じゃ。暫く起き上がれんだろう。」


 彼女ではやはり敵わないのか…


 西園寺が此方に戻ろうとしたその時、倒れていた茉央が起き上がった。


「無理しない方がいい。峰打ちとはいえそれなりの力で斬っています。」


「ご心配は無用です。当たる直前に超回復ハイヒールを自分にかけておきました。ダメージなら既に回復済みです。」


 茉央は自分が斬られると感じた瞬間、自身の回復スキルをかけ、ダメージを相殺していたのだ。

 

「ここからが私の本気です。…おいで!炎鳥神フェニックス!!」


 茉央から溢れ出した炎が巨大な鳥の姿を形取る。炎の鳥は茉央を背に乗せ、上空へと羽ばたいた。


「あれは——召喚スキルか!?

 それも伝説級を召喚するとは…」


「伝説級?ってどういう意味ですか?」


「召喚系スキルには階級がある。

 兎や虫などただの使い魔を出す生物級。偵察なんかによく使われる。

 次に戦闘にも使える力を持つ魔獣級。

 そして最後が伝説級。これは単体での戦闘力も凄まじく固有の能力を持っている。

 単独で潜っている時には特に重宝される力じゃな。」


 だとしたら俺の毒邪龍ヒュドラも伝説級ってわけか。確かにこのスキルには随分と助けられた。

 でも五毒大帝はどれに位置付けられるんだろう…出す生物によって強さは変わる。

 まあ使えるからどれに分類されてもいいんだが…


 先程までの状況とは打って変わって、現状茉央が優位に立っている。


 上空から降りかかる炎鳥神フェニックスと茉央の炎弾を避けることに精一杯の様子だ。


「あんな上空にいられたら厄介ですよね。

 しかも金城さんからは攻撃できるし。」


「そうじゃのう。あの攻め方はちと厄介じゃな。儂でも手を焼くぞ。」


 このまま茉央が押し切るかと思われたが、相手にしているのはトップランカーだ。

 そう簡単に終わるはずも無い。


「貴方の実力を見誤っていた。謝罪する。

 ここからは、私も全力で行きます。

 来い——玉藻前たまものまえ。」


 九本の尾を持つ巨大な狐が姿を現した。


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