第76話 集合体は気持ち悪い

「ちょっと待って下さい…何使うつもりですか?まさか…五毒大帝ごどくたいていじゃないですよね。」


 恐る恐る訪ねる明美に、俺は無言で肯定の意を示す。


「金城さん!今すぐ後ろを向いて目を瞑って下さい。」


「え?どうしてですか?そんなに危険なスキルなんですか?」


「危険というか…あんなの見たらトラウマになります!いいから急いで!」


 慌てふためく明美に対して、金城さんは何がなんだか分からず、あたふたしていた。

 そうしている間に草介の足元から毒が広範囲に広がり、中から何か出てくる。


「【五毒大帝ごどくたいてい】毒蜘蛛」


 毒の大地…でもこれだけじゃトラウマになるとは思えないけど……あ、中から何か出てくる?え!嘘……アレは——


 毒から出てくる生き物を見た瞬間、金城は慌てて目を瞑った。


「岩垣さん、アレって……」


「……五毒大帝は5種類の生物を使役するスキル。その中1種類、毒蜘蛛です。絶対に振り返らない方が良いですよ。」


 毒蜘蛛はゴブリン30体などでは比較にならない程の数である。体は小さいが1体ずつが強力な毒を有している。それらがゴブリンの群れへと向かって行った。


 ゴブリンの体を覆い隠すように蜘蛛が纏わり付く。その様子はとても悍ましく、虫の死骸に集まる蟻の大群を見ている様な気分になる。いや、生きている相手が食われている為、それ以上の悍ましさかも知れない。


 数の暴力によりゴブリンは一掃され、その姿を消した。


「よし、終わった。もういいぞ。」


 後ろを向いている二人に声をかけると明美がもの凄い形相で振り返り、俺に詰め寄って来た。


「なんであのスキルを使ったんですか!二度と使うなって氷華先輩にも言われてましたよね!」


 このスキルが出た時、興味本位にパーティメンバーの前で使った事がある。蜘蛛を見た明美と氷華はパニックに陥り、伸晃は2人よりマシだったが軽く引いていた。最終的には氷華がスキルで一掃し、二度と使うなと凄んで来たのでそれ以降、1人の時以外使わない様にして来た。


「いや、金城さんが気になるって言ってたし…それに俺だってアイツら見るの気持ち悪いんだぞ。好きで使ってる訳じゃない。」


「言葉で説明してくれたら良かったじゃないですか。私だってあんなの見たくなかったです…うぅ…今日寝れなかったら草介さんのせいですからね。」


 涙目の金城さんに睨まれてしまった。

 可愛いなんて思ったのは内緒だ。口に出してしまうと反省してないと思われる。


 その後、女の子二人は暫くの間、俺と話してくれなかった。


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