第70話 料理出来ると好感度が上がる

 美月ちゃんは部屋に上がると慣れた手つきで料理を作り始めた。料理している彼女の後ろ姿に俺は声をかけた。


「美月ちゃんが毎日掃除してくれてたんだって。ありがとね。」


「草介さんが帰って来た時に汚い状態だと困るじゃないですか。だから私が掃除しようって思って。今日、お客さんたちが草介さんが帰って来たって噂してたので、もしかしてって思って食材を買って来たんですけど無駄にならなくて良かったです。」


 美月ちゃんは俺とキスした事など忘れているかのように普通に話している。


 もしかして気にしてるのは俺だけなのか?

 今まで碌に恋愛なんてして来なかったし、こういうのはよくわからない。美月ちゃんからしたらあのキスはただのお礼だったのかも知れない。


 俺にも年長者としてのメンツってものがある。俺の方が気にしていては、なんだか情けないので美月ちゃんには悟られない様にしたい。俺も普通に接さなければ……


 そこからは出来る限り普通を装い、会話を続けた。暫くして料理が出来上がり、二人で食事をとる事にした。彼女が作った料理はカレー。俺の大好物だ。


「「いただきます。」」


 見栄えもよく、食欲を唆られる香りが漂う。

 バッカスの遣いでは美月ちゃんは料理をしていないので腕前はわからない。父親譲りならハズレだけど、母親譲りなら大当たり。

 美月ちゃんがどちらかは食べてみなければわからない。


 意を決してカレーを一口食べてみる。


 これは——うまい!

 お母さん譲りでよかったぁ。


「どうですか?」


「うん!めちゃくちゃ美味しいよ。美月ちゃんって料理上手だったんだね。」


「えへへ、頑張って練習したんです。美味しいって言って貰えて良かったです。」


 そう言いながら微笑む彼女の指には幾つもの絆創膏が貼ってあった。


 そっか…美月ちゃん、頑張って練習してくれたんだな。


 そう思うとなんだかより一層美味しく感じる。

 俺はカレーを一気に口の中に掻き込んだ。


「ふふ、そんな急いで食べなくても。まだまだありますから一杯食べて下さいね。」





「ふう…食った食った。」


 久しぶりにちゃんとした食事にありつけた事もあり、結局3杯もおかわりしてしまった。

 洗い物までやってくれて、暫くの間一緒にテレビを見たりしているとあっという間に時刻は23時。


「美月ちゃん、もう遅いしそろそろ帰った方がいいよ。危ないし送ってあげるから。」


「……そうですね。わかりました。ありがとうございます。」


 どこか寂しげに彼女は微笑んだ。


 原付に乗ってる間、特に会話もなくバッカスの遣いに辿り着く。


「送って頂いてありがとうございます。それじゃあまた明日。」


「こっちこそありがとね。また明日。」


 そういうと彼女は家の中へと入って行った。


 ん?また明日?もしかして美月ちゃん明日も来る気なのか?


 流れで返事を返してしまったが、俺が住んでるので別に明日来る必要はないのだが…美月ちゃんもう帰っちゃったし…明日言いに来よう。


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