第61話 家に帰るまでが遠足

「見て、魔獣がダンジョンに戻ってる。」


 街へと進行していた魔獣が向きを変え、特に暴れ出すこともなくただダンジョンへと戻って行く。


「これで一安心だね。」


「ほんと、死ぬかと思ったよ。はぁ、これって報酬とか出るのかなぁ。俺、武器とか防具とか使えなくなったんだけど…」


 草介の防具は溶かされ、武器は消失している。


 まだアレ貰ってから一週間くらいしか経ってないんだけど…


「多少は出ると思うけど、あんまり期待は出来ないと思うよ。街の復興にもお金かかるし。最悪何も貰えないかもねぇ。」


 街を見てみると至る所が崩壊しており、まるで巨大な台風に襲われた跡の様だ。


「ところでさ、あの新しいスキル。どうやって覚えたの?レベルアップもしてないのにスキルを覚えるなんておかしいよ。タイミング的にワームの体内で何かしたでしょ。教えてよ。」


 何を期待しているのか、興味津々と言った目でこちらを眺めて来る。


 あんまり言いたくないんだけどなぁ。


「教えたくない。そもそも詮索するのはマナー違反でしょ。トップランカーなんだから守らないと。」


 ステータスに関わる情報は無理して教える必要はない。詮索することはマナー違反とされており、現場を目撃されたり証拠を残しておけばペナルティを与える事も出来る。


「それもそうなんだけどね〜。ほら、急激に強くなってたから気になちゃって。

 そうだなぁ。教えてくれたら新しい武器と防具あげる。それも今の草介のレベルに見合った物。どうかな?」


 クソ…この女、俺に金がないことわかってやがる。報酬は貰えるかどうかわからない今、装備品を貰えるというのは非常に心揺さぶられる提案だ。このレベルだと揃えるのに数百万かかってしまう。

 小郡は強くなりたくて聞いているのだろうが、俺は別に情報を秘匿して自分だけ強くなろうと考えている訳ではない。ただ、あの時の行動を思い出したくなくて言いたくないのだ。だが、背に腹は変えられない。喋るだけで数百万手に入ると思えば、嫌な思い出など大したことはない。


「……絶対に引くなよ。」


「うんうん。絶対引かない。」


 笑顔で即答する。

 絶対に俺の忠告を聞いてない。

 彼女に同じことができるとは思えないが…


「はぁ。あの時、体内から魔獣の肉を食いちぎった。流石に意図的に生肉を呑み込みはしなかったけど、破片とか血くらいは飲んだかも知れない。暫く続けてたら毒龍ヒュドラが進化して新しいスキルになってた。以上。」


 思い返しただけで吐き気がする。刀もなく、吐き出させる術を思いつかなかった俺は最後の抵抗でそこら中の肉を食べることにした。腹が減ってたとかそういう訳ではなく、ただ人間の部位で一番ダメージを与えられそうだったのが噛みちぎるという行為だっただけだ。流れ込んでくる血の味に何度も吐き気を催したことか。


 笑顔だった小郡の表情が冷め切っている。汚物を見るような目で俺を見ていた。


「だから引くなって言ったろ。」


「だって…そんな手段普通取らないでしょ。ワームは毒持ってるんだよ?草介は毒耐性あるから良かったけど、普通食べた瞬間死ぬからね。」


 そんな事はわかってる。だが、どうせ死ぬなら消化され徐々に溶かされるより、毒肉を食らって一瞬で死にたい。それに生き残れる可能性もあるのだから、試さない理由はないだろう。結果として俺は生き残れた。


「あ〜あ、そんな方法試せないじゃん!

 しくじった…」


 小郡が露骨に落ち込んでいる。

 俺はそこに追い打ちをかける。


「約束は守れよ。」


「わかってるよ!」


 二人はふらふらの体を支え合いながら、ギルドへと歩いて行った。



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