第31話 夢とわかっていても悪夢は怖い

 はぁ…はぁ…クソ!なぜだ…何回斬っても傷一つないなんて…一体何が起きている?


 怪我こそしていないが、何度も斬りかかったりしている事で体力がなくなり既に満身創痍の草介に対し、サイクロプスの体には傷一つついておらず平然と立っている。


 斬撃だけじゃなく毒も効かないなんて…どんなに力の差があっても全くダメージが入らないのはおかしい。何かカラクリがある筈だ。見極めてやる。


 何度も何度も斬りつける。

 しかし、サイクロプスの体は直ぐ元通りに戻りまるで効いている様子はない。


「だったら———首はどうだ!!」


 最後の力を振り絞り、スキル【霧時雨】を発動する。霧雨の刀身から毒が溢れ出し刀身に纏わりついていく。


 まだだ…あいつを倒すにはこんなものじゃ足りない。もっと力を溜めないと…


 力を溜め続けることで刀身に纏っている毒が肥大化していく。とうとう毒液は草介の体を覆い尽くすほど大きくなる。


【霧時雨】は力を溜め続ける事で威力が上がるスキルだが、溜め過ぎれば今のように使用者まで毒に巻き込まれてしまうというデメリットが存在する。だが、草介の毒耐性はカンストしており、毒による攻撃は効かない。よって草介だけは【霧時雨】の攻撃を最大まで引き出すことが出来るのだ。


「こいつで終わりだ。【霧時雨】」


 溜め続けた斬撃をサイクロプス目掛けて放つ。


 その威力、大きさは凄まじくサイクロプスの首を容易に切り裂いた。


 獲った!これで終わり……


 霧時雨の直撃で勝利を確信した草介であったが、サイクロプスの姿を見て絶望する。確実に首を落とした筈なのに次の瞬間、サイクロプスの首は繋がっていた。



 ありえない。あの状態から再生する野獣なんて見た事も聞いた事もない。それにサイクロプスの脅威は異常な耐久力と攻撃力だ。耐え切るならまだしも再生なんて出来るはずがないんだ。これじゃあまるで雲の相手をしているみたいじゃないか……雲?まさか……


 何かに気付いた草介は、その場に立ち尽くし振り下ろされるサイクロプスの拳を黙ってその身で受け止めた。拳は大地を割り、森中に亀裂が入ったが拳を上げるとそこには無傷の草介が立っていた。


 なんだよ。俺の攻撃が奴に効かないのも、逆に奴の攻撃が効かないのもそういう事だったんじゃないか。考えてみればおかしいところはあったんだ。感知のスキルを所持した俺があんなにデカいサイクロプスの接近に気付かない訳がない。それに、最初の一撃で割れた大地が元に戻っている。


 確定だな。ここは俺の夢の中だ。正確にはアオテングタケによる幻覚を見せられてたってとこか。香りを嗅いだあの時に幻覚にかかってしまったのだろう。

 わかってしまえば後は脱出するだけだが……目が覚める気配もないし、やるしかないよなぁ。


【霧雨】を抜くと刀身に指を添え、思いっきり自身の指を斬りつけた。


 いっってえ!!だが痛いって事は……


 顔を上げると目の前には焦げたアオテングタケがあった。


 ふぅ…なんとか戻って来れたみたいだ。




『スキル【幻覚耐性Ⅰ】を獲得しました。】



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