第32話 大人になると恥ずかしい

「こいつはヤバいな。」


 まさか匂いだけで幻覚にかかってしまうとは…それに、気付くのが遅れていたらこの森が火事になって俺は死んでいたかも知れない。……食べてみたいけど、これは誰かと一緒の時に試そう。あんな目に合うのはもう懲り懲りだ。


 焦げたアオテングタケを持ち帰り用の袋に入れる。元々、何か美味しい食材があったら夜食用に持って帰ろうと考えていた。それほどまでの草介の生活は苦しい。



「それじゃあ気を取り直して、今日ラストはこいつだな。」


 放置され過ぎて冷えた眠り草の天ぷらを食べる。


 う……美味い!!これは当たりだ!!柔らかな味わいの中に少し苦味があるがそれがまたクセになる。普通に料亭とかで出てくる山菜の天ぷらそのものだ。


 あまりの美味しさに草介は一心不乱に食べ続けた。———睡眠作用があることも忘れて



「ふぅ、腹一杯だぁ…ああ…なんだか…ねむ……く…なっ…て……」




『スキル【睡眠耐性Ⅰ】を獲得しました。』



 クソ……スキル習得すんの遅えよ。ヤバい…意識が遠のく……寝るな……こんなところで寝たら…魔獣に…くわ…れ……る…


 必死に抵抗しようと試みるも、眠気に抗えずその場に倒れ込んでしまう。そんな草介の元に一つの影が舞い降りた。



 ???

「これは……眠り草。そっか、これ食べちゃったのね。なんか色々調理器具が準備してあるけど……まさかこの人自分から食べたの!?あっちゃ〜、確かこの人って万年1層止まりで有名な人だよね。お金がなくなってとうとうやっちゃったかぁ。仕方ない。置いてっても後味悪いし、ギルドまで運んでやるか。」


 謎の女性は、男性でありそれなりに体重もある草介を軽々と担ぎ上げ、肩に乗せると颯爽と立ち去った。






 ここは……って最近俺、よく気を失ってる気がするな。見覚えのある景色。そうか、ここはギルドだな。しかし、いったい誰がここまで運んでくれたのだろう?


 起き上がり少しの間考え事をしていると部屋のドアが開き隆二が入ってきた。


「お!目ぇ覚めたか!」


「おかげさまで。」


「そりゃ良かった。…それにしてもお前、まさか【青薔薇の姫あおばらのひめ】と知り合いだったとは思わなかったぜ。」


「【青薔薇の姫あおばらのひめ】??一体誰の事だ?」


青薔薇の姫あおばらのひめ】というのは【二つ名】だろうが俺の知り合いにそんな呼ばれ方をしてる奴いたか?


【二つ名】とは、探索者の中でも素晴らしい実績を残した者や非常に高い戦闘力を持つ者に与えられる称号である。


「知らねえのかよ。小郡氷華おごおりひょうか。トップクラスの探索者でその美貌と圧倒的強さから女王なんて呼ばれてる。年齢はお前と同じ24歳なんだが……お前と随分差がついてるな。」


 うるせえ。余計なお世話だ。

 しかし、同い年にそれ程の探索者がいるとは…励みになるな。今からでも間に合うだろうか。彼女たちに並ぶトップランカーに。


 それからは俺がダンジョンで草を食べていた事がバレてこっぴどく叱られてしまった。そりゃそうだ。ダンジョンに生えてる草なんてどんな効果があるかわからないし、下手したら今日みたいに命を落とす危険だってある。


 それはわかってんだけどスキルを得る為だから仕方ないんだよなぁ〜


 小一時間続いた説教を軽く聞き流し、隙を見て颯爽と家に帰る。

 帰り際、隆二から青薔薇の姫に礼を言えと言われたがそれは出来そうにもない。


「だって顔わかんねえもんなぁ。」


 家に着いた草介は、昼間のことをもう忘れたかのようにダンジョンで獲った草を食べた。数時間後、腹を下しトイレに篭る羽目になってしまったが、その程度で済んだのは奇跡である。



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