第3話 ホッと一息……つけませんでした

 ダンジョンの1階層は主にスライム、ゴブリン、ホーンラビット、コボルトなどの弱小モンスターが出現する。

 これらのモンスターは武器を持った人間と互角程度の強さで群れに囲まれたりしない限り負ける事はない。

 レベル上げを終え最深部にあるボス部屋にて、ボスモンスターであるトロールを討伐する事で探索者は次の階層へと進む事が出来る。


 レベル7もあれば討伐可能とされているトロールだが俺はレベル9となっても勝つ事が出来ずにいた。原因はわかっている。

 俺にはスキルが未だに一つも発現していないからだ。一般的な探索者は日常の戦闘をこなす事で【剣術】や【棒術】などの武器に見合ったスキルや【索敵】や【鑑定】など採取クエストで得られるスキルもある。

 だが、それすらも俺は得ていないのだ。


「なんかスキルが出たら俺も少しは強くなれるのかなぁ。」


 そんな事を考えながら薬草を集める。

 もう何年も採取クエストをこなしているので【鑑定】のスキルがなくても見ただけで薬草の種類はわかるようになっていた。

 草介が今いる場所はあまり魔獣が湧いてこない絶好の採取スポットだ。この場所は草介が見つけた場所であり他の探索者が訪れる事は殆どない。


「お!ここにもあった。やっぱり此処は採取クエストに持ってこいだな。この調子なら午前中には終わりそうだ。」


 ただひたすらに薬草を集めて行く。

 時々襲いかかって来るスライムと戦ったり、休憩を挟んだりしながら採取を続ける。

 3時間が経過し、漸く依頼されていた量の薬草を集め終えた。


 思ったより早く終わったな。一旦ギルドに戻って報酬貰おう。腹減ったし休憩挟んでまたダンジョン潜れば多少の稼ぎにはなるだろ。


 草介はダンジョンを出て、【ギルド総合施設】へ足を運んだ。



 施設内に入ると昼時だからか人で溢れかえっている。どの受付も行列が出来ている中、たった一つ人が並んでいない場所があった。俺は迷う事なくそこへ向かう。


「相変わらず人気ねえな。」


「うるせえ。これくらいが楽で丁度いいんだよ。ってか、相変わらず速いな。」


「まあ何回もやってるからな。俺から採取クエストの速さまで取り上げられたら何も残らねえよ。」


「それもそうだ。」


 雑談を交わしながらも、俺は依頼にあった薬草を隆二に渡す。


「ちょっと待てよ…よし、大丈夫だ。問題ねえ。ほら、報酬だ。」


 隆二から報酬の10,000円を受け取る。


 よし!これでやっと飯が食える。最近はパンの耳しか食ってないし、それも昨日全部無くなったからな。腹減り過ぎて倒れそうだ。


「じゃ、俺はこれで。」


「ちょっと待て。緊急のクエストがあるんだが受けてくれないか?」


 颯爽とギルドを立ち去ろうとした俺を隆二が突如呼び止めた。仕方なく隆二が差し出している【クエスト】の内容を確認する。



 人探し

 報酬:8,000円

 内容:1階層【惑わしの森】にて逸れた仲間の捜索をお願いします。

 金城茉央きんじょうまお、18歳女性、黒髪ポニーテールが特徴。




「なんだこの依頼?報酬も少な過ぎるし、こんなの受ける奴いないだろ。誰かの悪戯じゃないのか?」


 ごく稀にではあるが、悪戯でクエストを持ち込む人間がいる。悪戯ならまだしも人を誘き寄せ、追い剥ぎを行う事件が過去に起きた事例もあり、このような不自然な依頼は普通の探索者は受けない。


「ああ、ギルドでもこの依頼は危険視されていて探索者には勧めないように言われている。だけどな、俺この依頼持って来た奴見たんだよ。そいつらの話盗み聞きしてたらどうやら【パレード】が起きたらしい。」


【パレード】とは突如として起こる魔獣が大量発生する現象の事だ。探索者はパレードに遭遇した場合、真っ先に逃げ出すよう教え込まれている。


「それが本当ならこの子は…」


「ああ、囮にされた可能性が高い。パーティを組んだ以上、一緒にダンジョンへ入った事はギルドにバレてるから形だけでも心配してるフリをして依頼したんだろ。」


「他の探索者に頼めないのか?ハッキリ言って俺は弱いぞ。行ったところで役に立たない。」


 俺にパレードの魔獣を倒し切る実力はない。依頼するなら、すでに2階層に進んでいる探索者に頼んだ方がこの子が助かる可能性は高いのだ。


「それは無理だ。確証もない上に報酬も少ない。こんな依頼を頼めるのはお前だけだ。

 ……それに、言い難いがこの依頼は今朝お前が行った後、俺に回って来たが既に3日経っているらしい。パレードはとっくに終わってるだろうし、その子が生きてる可能性は0に等しい。」


 3日だと…この年齢は初心者だろうし、そもそもパレードから生き延びれる可能性は低い。

 彼女は十中八九死んでいる。


「遺体の確認ってわけね。気は乗らないが可哀想だしやるしかないかぁ。」


 飯を食べたかったが仕方ない。流石に放っておくのも可哀想だしな。せめて早く見つけてあげるくらいしてあげないとな。


「悪いな。任せた。」


 隆二に手を振りながら、俺は再びダンジョンへと向かう。


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