あいうえお崩物語
月見トモ
崩物語
「愛してるって君に伝えたい」
今から言うことは
自惚れか、いや、本音だ。
永遠に抱えるはずだった想い。
覚えている内に、君に伝える事にした。
カメラに映る君はいつも元気で笑顔で、
きっと僕の事なんて視界に入ってないと思った。
クラスでも僕達は関わる事は少なかったし
敬語で話す距離感だった。
この間、君は突然僕の前にやって来て言った。
「この写真、私だよね」
サーッと、血の気が引いた。
写真を手に取りまじまじと見た後に彼女は言う。
「凄いアングル、いつ撮ったの?」
「……先週の放課後に校庭で君を見つけて。
その……キモいよね」
「ただ、美術展に出す写真をと思ったんだ。
ちゃんと許可取ろうとしたけど、
次に会うときでいいかって。
……でも、やっぱり無断は駄目だ。消すよ」
ドクドクと、心臓の音が漏れそうだった。
「なんで消すの?
入道雲の青とか、夏の日差しとか
濡れたアスファルトとか私凄く好きだよ」
ネガティブになる僕を前に
乗り気で熱弁し続ける君。
初めの内は、拒絶されるのが怖くて
冷や汗をかきながら黙っていた。
不安が募り、それが最高潮に達した時
変な顔をした君が僕を見下ろした。
「本当に、"
「まぁ、僕のカメラだし……どうして?」
未完成の写真達をじっと見つめたまま、
胸ポケットから君は写真を取り出した。
目の前に差し出されたその写真には
物憂げで暗い表情をした君が映っていた。
「やだなぁ、暗い表情撮る趣味なの?」
夕焼けが僕らを照らし雨が降り沈黙が流れた。
よく見てもこんな写真を撮った覚えがない。
雷鳴が轟き、その瞬間僕の視界は揺らいだ。
両手で耳を押え僕は”それ”に怯える。
「流来さんの本当の正体、私知ってるよ」
「……連絡ひないで……ぢがヴ、が……ひァ」
呂律が回らくなって僕はもう憑かれたと悟った。
和の国には古代から様々な化け物が潜んでいる。
「ォレは、だレ……ァ……て……ル……ヵら」
「んー……強いて言うなら、あなたは流来さんの身体を乗っ取った"
あいうえお崩物語(終)
崩物は化け物の見た目をしており、寄生する魔物。暗い表情やネガティブな感情が大好きで、心に入り込むのは得意。今日も暗を餌に憑く身体を探している。
あいうえお崩物語 月見トモ @to_mo_00
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