第2話

 とんでもない1日が終わろうとしていた。


台所からは美味しそうな音が聞こえてくる。


僕はずっと気になっている事を聞く。


「あのさ、夢遊病だったのって知ってたの?」


母は当然のように「知ってたわよ。」


「どんな感じなの?最後に見たのはいつ?」


僕は自分の知らない自分がいることがとても気持ちが悪くて仕方がなかった。


母は


「うーん、孝明がまだ小さかったころかな初めて寝ぼけて歩いてたのは。


6歳くらいの時に夜トイレに起きたんだと思ったら


窓開けて出てこうとするからそれを止めた時にお父さんが夢遊病ってわかったんだよね。


大人になるにつれて減っていくって言ってたからあんまり気にしてなかったけど


最後に見たのは去年かしら。


家の中フラフラ歩いてて 「孝明?寝るよー。」って言ったら


そのまま歩いて自分の部屋で寝てたからあんまり気にしてなかったの。」




そうだったのか。僕は夢遊病なのか。


「なんで言ってくれなかったの?」


「さあ!オムライスかんせーい!食べよ!」


母が料理をするのは久しぶりに見た。


すごく美味しそうだ。


「いただきます。」僕はすごく嬉しい気持ちが


表に出ないようにクールなふりをしてオムライスを食べ始めた。




シャワーを浴びながら考えていた、どうすれば僕は自分の無実を証明できるだろう。


今のままだったらまた僕は疑われるし


昨日の通り魔事件だって解決していない。


真犯人を見つけるにも向こうは凶器を持っていて


誰だろうが攻撃してくるだろう。


鏡を見て思いついた。


自分が自分を監視しよう。


風呂場から出てすぐに母にお願いした。


「監視カメラが欲しい!」


こんなお願い普通ならあり得ないだろう。


母は


「あ、ちょうど2台くらい余ってると思う!」


「なんで?」


僕からお願いしたのに聞いてしまうくらい母は早かった。


「会社で使ってたやつ入れ替えたのね、だから古いやつが二台あるのよ。」




スクールカバンくらいのサイズの段ボールを二つ渡された。


中には結構しっかりしたカメラが入っている。


早速自分の部屋に一つ取り付けてみた。


Wi-Fiを繋いだら携帯で観れる。


男子ならこんなの好きに決まっている。


僕の部屋は全て監視カメラに映る、一晩分を全て見直すのは大変そうだから


動体検知というモードにしておく、


そうすれば動いたものがあった時だけメモリに残る。


これで大丈夫。


今日はすごく疲れた。ゆっくり寝よう。






朝だ。


なんだかゆっくり眠れた気がするし夢も見ていない。


熟睡できた気がする。


いつものバスで学校へ行く。


いつも通りの日常、「こうめーい!」いつも通りの島津。


「ああ島津おはよう。」


「孝明昨日大丈夫だったか?兄貴に聞いたぞ!


なんか大変だったんだろ?大丈夫か?」


島津の兄貴は弟にこんなにいろいろな事を喋っていいのか


些か心配になるがまあいいのだろう。


「うん、大丈夫だよ。どうやら僕は夢遊病らしくてさ。


びっくりだろ?事件現場に一人で歩いて行ってたらしい。」


と言った途端、島津の顔が暗くなるのがわかった。


「孝明はさ、何も覚えてない?」


島津が聞いてくる、刑事の兄貴に聞いてこいと言われたのか。


僕は正直に答える。


「何も覚えていない。」


島津の顔が明るくなる。


「そうか!ならいいんだ!昨日何も言わずに帰っちゃうからさ〜


クラス中孝明の話で持ちきりだったよ!」


「え。。めんどくさいな。」




教室に入った途端思っていた通りだった。


「山崎くん!昨日何があったの?」


「ねえ!警察怖かった?」


「お前何したの?」


「山崎くんのお母さん綺麗だね」


「逮捕されたの?」




質問攻めだった、答える暇もないくらい。


僕は夢遊病のことや事件現場近くにいたことなどは喋らなかった。


夢遊病だったとしても自分の目で見るまでは信じられないし


それを言われた友人たちは気持ち悪いと思うかもしれない。


僕はとりあえず刑事さんたちが怖かった話だけをした。


「刑事さんが怖かったよ。一人はすごい筋肉ありそうで何しても勝てないだろうなって思った。


もう一人はメガネかけててカッコ良い人だった、


いかにもインテリって感じだった。」


島津が横から割って入ってくる。


「その刑事のメガネ銀縁だったでしょぉー!」


「そうそう!銀縁でさ、、、ってなんでわかんの?」


僕は聞く。




島津はキョトンとした顔で


「あれ?名前聞いてないの?その刑事が俺の兄貴だよ?」


そうだったんだ。一言も喋らないけどじっと僕を見てくるあの刑事が


島津のお兄さん、、、弟の友人なんだからもう少し優しい目をしてくれてもいいのではないかと思う。


「それで、山崎は何をしたんだ?通り魔に関係あるのか?」


クラスメートの一人がぶっきらぼうに言う。


僕は「ん、」言葉に詰まってしまう。


どう言おうか。何を言っても夢遊病の話になってしまいそうだ。


「俺の兄貴はさぁー。かっこいいんだぞぉー!


 全部の通り魔事件の捜査を任されていてだなぁ。


 この犯人を捕まえるのは絶対にうちの兄貴なんだ!


 島津健太郎の兄貴、島津優作ゆうさくは素晴らしい刑事なのだ!」


島津は大きすぎる声で演説をした。




キーンコーンカーンコーン




ちょうど始業のベルがなる。


ホームルームだ。それぞれの席にみんな座る。


余計な話はしなくてよかった。助かった。


そこからあまりみんなは聞いてこなかった。


気がついたら昼休み。


いつも島津と食堂でご飯を食べる。


その時に監視カメラの映像を見せてみた。




自分が本当に夢遊病なのかどうかわからないと言うこと、


昨日その事を初めて知って不安になったから監視カメラをつけた事。


そんな事を説明した。


島津は笑うわけでもなくただひたすらに僕の目を見て真剣に話を聞いてくれた。


「孝明の中でしっかり不安がなくなるといいね。」


本当に島津は優しい、良い友達を持った。


「島津、そういえばさっき僕にみんなが聞いた時わざと遮ってくれたのか?」


島津は


「ああ、なんか孝明言いたくないことありそうだったからね。


 それに昨日も刑事たちにあんな感じで聞かれたでしょ?


 二日もあんな思いしたくないでしょ。みんな配慮が足りないよね!」


僕は今島津に惚れそうだった。


そんな気持ちをはぐらかすように目の前のラーメンをすすった。




放課後監視カメラの映像を


校舎とグラウンドの間の自転車小屋の横で島津と観る。


僕の寝相はとても良いと言えるものではなかった。


動く時だけがデータに残っているので


ずっとベッドでもぞもぞしている僕が映る。


20分ほど見たところで僕がベッドから起き上がった。


「本当に夢遊病なんだ。。。」


僕は呟いた。


「時間見て!朝だよ」


島津は時間を指差す。




7:00:00




朝7時起きた時間だ。


昨日は特に夢遊病らしいところはなかったってことなのだろうか。


「孝明さ、これ一人で見るの怖いんでしょ?


毎日一緒に観てあげるよ。心配しないで。」


島津は僕の不安とか全部見えているのだろうか。


本当にコイツは格好いいな。




「ありがとう。健太郎。」


ボソッと感謝の気持ちが声になって出た。




「え?もう一回言って!」


島津が言う




「あ、ありがとう。」


もう一度言う。




「違う違う!今初めて名前で呼んだでしょ!


 健太郎って!」




「え?そうだった?あんま覚えてないかな。」


僕はとっさに健太郎と言っていたようだ。




「なんだよ照れくさいな〜!親友だろ!なんでも言ってくれよ!」




「そっか、ありがとう。健太郎。」




健太郎の顔がパァッと明るくなった時


グラウンドの方からサッカーボールが飛んでくるのが見えた。


全然速くもない少しバウンドしているただのボールだ。


誰でも避けれる、誰でもキャッチできる。


そんなボールは




健太郎の左のこめかみにぶつかった。




「いて!びっくりしたぁ〜!」


健太郎がそう言いながら立ち上がってボールを蹴り返す。




「何してんだよ。健太郎!」


僕は笑いながら言う。




健太郎も恥ずかしそうに笑っていた。


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