命の使徒と宴
フレアが村に戻ると木製の門が閉じられていた。だが、見張り台に居た戦士がフレアを見つけて声をかけた。
「フレア殿、ご無事で何より、バジリスクは、どうなりました?」
「こうなりました♪」
フレアはおどけた調子でバジリスクの死体を魔法の収納スペースから取り出して見せた。
「なんと!倒してしまったのですか?たった一人で?」
「僕は魔法が使えるからね。邪眼さえ封じてしまえば、そこら辺の毒蛇と同じだよ(自慢)」
「おい!門を開けろ!フレア殿がバジリスクを仕留めて帰って来たぞ~」
門が開かれ、多くの村人が、首と胴体が切り離されたバジリスクと、その死体の前で自慢気に腕を組んで立っているフレアを見た。
子供たちが真っ先にフレアに駆け寄り、フレアを誉め称えた。
「お姉ちゃん凄い!」「どうやって倒したの?教えて教えて」とフレアを囲んでおおはしゃぎしていた。
「フッフッフ、知りたいのかい?ならば教えてあげるよ。だけど、少~し危ないから、下がってくれるかい?」
「「「は~い」」」
フレアの言葉に従って、子供たちには離れた。フレアは十分距離が有ることを確認して実演を開始した。
「まずは、石化の邪眼の影響を受けないように姿を隠します。イン・ビジブル≪不可視≫」
「消えた!」「凄い!」「あれも、魔法なのか……」
「そして、次にバジリスクを殺す為に、切り刻みます」
(ここは、魔法の強さをアピールするために派手にいこう♪)
「ウインド・カッター・テン・リームス≪真空刃10連≫」
フレアの放った真空の刃は、バジリスクの胴体を11等分した。
「すっげー」「ヤバイ」「かっけー」「あんな、簡単に切り刻むのか……」「これが、魔法」
(よしよし、興味を持ってくれたようだね)
フレアの魔法の力をみて、村を守る戦士の1人が声をあげる。
「ジルド様、これでもアニマ教に教えを乞うてはなりませんか?魔法の力があれば、
(ワシもそう思う。フレア様もミリア様もワシら赤熊人を助けようとして下さっている。だが、空地人に対抗できる力を得るということは、総力戦の始まりを意味する。使徒様は、それも覚悟の上だろうが……)
「力を得れば、今までの小競り合いではなく、総力戦となる。今まで以上に犠牲が出る。それは、理解しての言葉か?」
ジルドの問いに戦士は、迷いの無い眼差しで答えた。
「覚悟の上です。拐われた我が子を取り戻せるのなら、命を懸けて戦います」
「分かった。ならば止めはせぬ。他にも魔法の力が欲しいと思う者は、フレア殿に教えを乞うが良い」
「え?良いの、ありがとう(歓喜)、さあ、この本を上げるから、欲しい人は並んで並んで~♪」
(やったー、パフォーマンス大成功♪)
魔法を見ていた戦士の8割は、アニマ教の教徒になった。女性と子供も半数がアニマ教徒になった。
この村の住民は約100人で男20人、女50人、子供30人といびつな人口比率だった。なので、この時、約60名がアニマ教徒になった。
人口比率がいびつなのは、空地人の襲撃とジャングルの魔物や獣のせいで男と子供が、犠牲になるからだった。
「さて、新しいアニマ教徒と、この村の発展と、バジリスク討伐を祝って宴を開きませんか?メインディッシュは、バジリスクの香草焼きで、どうです?見てのとおり量はありますよ(笑顔)」
フレアの提案を受けてジルドが答える。
「バジリスクの肉は食べれるのですか?」
「おや?ジルド殿でも食べたことはないのですか(不思議)」
「そもそも、討伐出来ない魔物でしたからな……」
「なるほどなるほど、ならば、なにを隠そう、僕は以前バジリスクを討伐し、肉を食べたことが有るのです!毒は毒消しの薬草で香草焼きにすれば消えるし、とても美味しいですよ~」
「そうですか、ならば、皆で頂く事にいたしましょう」
こうして、バジリスクの香草焼きをメインディッシュにした宴が開かれることになった。
ボルドとクレア(ミリア)が村に帰った時、夕方前だったが、既に宴が始まっていた。最初は、バジリスクの肉から毒が消えているか、また毒が無くても美味しいのか疑っていた村人たちだったが、フレアが美味しそうに食べ始め、無事なのを確認すると、みんなで食べ始めた。
「何これ美味しい!」「たくさん食べて良いの?」「ヤバイヤバイヤバイ」
村人たちにも大好評だった。
「これは一体……」
「ボルド様、お帰りなさい。これは、フレア殿がバジリスクを討伐したお祝いの宴ですよ。ボルド様も商人殿もぜひ参加してください。バジリスクの香草焼き、美味しいですよ」
「おう」
(フレア殿がバジリスクを倒しただと?石化の邪眼をどうやって防いだんだ?)
「では、お言葉に甘えて参加させて頂きます」
(なるほど、信徒が急激に増えたのはこれが、理由か……。フレアを薬草採取に行かせた甲斐があったな)
「あ、ボルド殿、お帰りなさい。首尾は上々の様ですね。どうです?ボルド殿もアニマ教徒になりませんか?」
「フレア殿、約束を忘れたのか?(怒)」
「待て、ボルド、ワシが許可を出した。フレア殿は悪くない」
「何故です!」
「女子供を守ってくれた。それでは足りんか?」
「ですが、レッドベアの教えは、どうなるのです?」
「お前もアニマ教を学べば分かる。アニマ教にはレッドベアの教えも含まれているのだ。だから許した。魔法の強さを目の当たりにし、力が欲しいと思った者には好きにさせることにした」
「そうですか……」
「と、言うわけだよ。だから、どうだい?この本を受け取ってボルド殿もアニマ教徒になってよ(とびっきりの笑顔)」
「断る!」
「え?なんで?」
「俺との約束を反故にした。理由は、それで十分だ」
そう言ってボルドは、拒絶した。
「そっか、残念だな(哀しみ)。約束を反故にしてごめん。ボルド殿が戻ってから、ちゃんと許可を取ってから布教するべきだった。本当にごめん」
「今さら遅い」
「許されないことをしたのは分かったよ。でも、バジリスクの香草焼きは、食べて欲しい。これは、本当に美味しいから……」
そう言って、フレアは肩を落として、自分に用意された家にフラフラと帰って行った。
(少し、言い過ぎたか?ジルド様が許可したのだから俺が文句を言う筋合いは無いのだが、不真面目な態度と隙有らば布教しようとする姿勢が詐欺師のようで気に食わなかったが、根は真面目で正直者なのは間違いない)
(ボルドが、ここまで拒絶するとはな、ワシも配慮が足りなかったか……。ボルドも空地人との戦争で多くを失った。排他的になるのは無理もない。
ワシもアニマ教徒になって居なければ同じ反応をしていたかもしれん。とは言え、意固地になった者に何か言ったところで逆効果になる。ここは、見守るしかあるまい)
ボルドは、バジリスクの香草焼きを食べてみた。
(これは旨いな)
そして、村人たちの顔を見た。
(みな、幸せそうに宴を楽しんでいる。美味しいご馳走を用意してくれたのはフレア殿だ。お礼は言わねばな)
ボルドは、言い訳を作って、フレアの家に行き、声をかけた。
「さっきは言い過ぎた。ジルド様が許可を出したのなら俺に異論はない。バジリスクの香草焼きは旨かった。アニマ教徒には、ならないが、どうやって倒したのか聞かせてくれないか?」
「え?良いの?ありがとう(嬉し泣き)」
「泣くほどの事か?」
「だって、ボルド殿は、僕にとって大切な人だから、嫌われたら悲しいよ(泣き)」
(大切な人?どういう意味だ?白樹人には恋愛感情は無いと聞いている)
「大切?」
「アニマ教の闘士になって、僕と一緒にアニマ教を世界に広めて欲しいんだ♪」
「はっはっは、そういう意味か(正直者め)、だが、今はまだフレア殿もアニマ教も信じる気にはなれん。だが、今後、俺を勧誘しないのなら、気が変わるかもしれん」
「本当!?なら、僕はもうボルド殿を勧誘しないよ(喜び)」
「さあ、宴に戻ろう主役が居なくては、みなが心配する」
「そうだね。戻ろう」
(失敗するかと思ったけど上手くいったみたいね。まあ、フレアの馬鹿正直な性格とボルドのような実直な性格は相性が良いから上手くいくと思うけど……。万が一、フレアがしくじっても空地人との戦闘後にはボルドをアニマ教に引き込む策は順調に進んでいるし、問題はない。それにしてもバジリスクの香草焼き、また食べれるとはな~。美味しい♪)
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