赤熊人と死の商人

「まて、この村に何の用だ」

「あ、見ての通り行商人です。銃とシールドベルトと医薬品を売りに来たんですが……」

「もうすぐ日が暮れる。商売がしたいなら明日にするんだな」

「はい、そうさせて頂きます」

 そう言ってミリアは村に入ろうとした。

「まて、村に入っていいとは言ってない」

「ええ?女性一人で、こんなジャングルの真ん中で野宿しろとおっしゃるんですか?」

「いや、お前、宇宙人だろ?船で来たんじゃないのか?」

「いいえ、違います。黒樹人くろきびとです。この耳を見てください(指さし)」

「珍しいこともあるんだな?今日は白樹人しらきびとも来ている」

「へ~。珍しいですね(驚き)」

「あんたも、アニマ教を信じてるのか?」

「いえ、私は無宗教です。なんですか?そのアニマ教って?」

「白樹人が広めようとしてたんだ。黒樹人にも広まってるのかと思ってな、国も近いし交流もあるんだろう?」

「まあ、それなりに交流はありますが、宗教的なものはありませんよ?やってることは世界樹と虚界樹の守護ですし」

「あんたは守らなくていいのか?」

「あ~、恥ずかしい話なんですが、私、落ちこぼれでして……。国を追い出されたんです」

「そうか、すまないことを聞いた」

「いえいえ、とんでもない。それよりもどうです?泊めて頂けるのなら明日の商売の時、値引きいたしますよ(営業スマイル)」

「まあ、怪しい奴じゃなさそうだな。だが、うちの村には宿屋は無い。先客の白樹人と同じ家で良ければ泊めてやってもいい」

「本当ですか!ありがとうございます」

「あんた名は?俺はボルドだ」

「あ、私はクレアと申します。どうぞ、よしなに」

(フレアがうっかり私の名前を漏らしているかも知れないし、ここは偽名でいこう)


 村の中に案内され歩いている途中、ボルドはミリアに話しかけた。

「興味本位で聞くんだが、なぜ行商をしている。聞いた話によれば、黒樹人は水さえ飲んでいれば死ぬことが無いのだろう?金を稼がずとも良いはずだ」

「それは、そうなんですけどね。私は落ちこぼれで、国を追い出された後、色んな国を巡り歩いて知ったんです。この世には美味しいものがたくさんあるって(恍惚)」

「どういうことだ?」

「黒樹人は水しか飲まないんですが、別に食事が出来ない訳じゃないんです。最初に飲んだものはリンゴジュースでした。この世にこんなおいしいものがあったのかと感動しました。

 そして、私を食の虜にしたのはソフトクリーム。あんなに甘く濃厚な旨味が凝縮された食べ物を知らないだなんて、他の黒樹人は可哀そうです。私は美味しいものを食べるためにお金を稼いでいるんですよ」

「なるほど、合点がいった。だが、この村には価値ある物なんて無いぞ?」

「それは、違いますよ。宇宙人からしたら、ここは宝の宝庫、お兄さんが身に着けている毛皮、それ宇宙人の街で売ればそれなりの値段が付くんですよ?」

「この狼の毛皮が?」

「ええ、宇宙人の間では、シルバーウルフの毛皮は金持ちに人気の商品です」

「なぜだ?」

「シルバーウルフは強く、簡単に狩ることが出来ないし、その毛皮は銃弾を弾き、美しく銀色に輝き、肌触りも良い。宇宙人はそういうのが好きなんですよ」

「なるほど、そういうものか」


 そんな会話をしているうちに、フレアが居る仮家に着いた。

「あ、ミリアも来たんだ」

 開口一番フレアはミリアとの約束を忘れてそう言った。

「知り合いなのか?」

(ああ、分かっていた。フレアは残念な子だ。だからこそ私は全力で演技しなければならない。まったく面倒なことだ……)

「いいえ違います。全くの初対面ですよ。私はクレアです。ミリアではありませんよ?」

(やば、約束忘れてた~)

「あ、そうなんですね知り合いに似てたんで……(滝汗)」

(そんな態度取ったら、怪しまれるのに……。まったく)

(怪しい、フレアは明らかに嘘を吐いている。対してクレアは嘘を言っているように見えないが、逆にそこが怪しい)

「そうだったんですね~。まあ、黒樹人も白樹人も似たような顔をしているから判別が難しいですよね~」

(妥当な言い訳だが、俺は白樹人も黒樹人も見るのは今日が初めてだ。クレアの言っていることが嘘か本当か判別できない)

(あれ?ミリアってこんな話し方だっけ?もっと不愛想で淡々とした話し方だったな~?服も違うし、もしかして本当に別人?)

「あ、ごめんなさい。僕の完全な勘違いでした。そもそも性格が違うし、顔が似てただけみたいですね」

(ふむ、これは本当の言葉だな。俺の考えすぎだったか)

「いえいえ、良いんですよ。私もよく間違えますから~」

(よし、上手く行った。フレアは本当に私を別人だと思い込んだ。これで、私がアニマ教の使徒だとバレる心配はない)

 こうして、ミリアはクレアとして村に入り込むことに成功した。

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