死の使徒と宇宙人の街

 樹の上から村の様子を双眼鏡で伺っていたミリアは驚いていた。

(なんで信者が増えるんだ?宣教師として村に入り、なんか戦闘らしきことを行った後、村長らしき人物が教典を受け取った?

 訳が分からない……。いや、だがおかしいな、アニマ教の教えを理解したのなら、他の村人に勧めるはずだ。だが、そうしないという事はフレアが信用されていない可能性があるな。

 なるほど、村長は慎重な性格か……。なら、こちらも慎重に行くとしよう。まずは商材を仕入れるか)


「ポイント≪視覚外の場所への空間転移≫」

 ミリアが転移したのはギャラクシー共和国の首都ニューテラスの宇宙港だった。ギャラクシー共和国は宇宙人が治める国で、この星に元から住んでいる種族に比べて科学技術が発達していた。古代人の遺跡から見つかる武具なども品質は劣るが再現できる為、貴重だった武具が、それなりの値段で手に入るのだ。

 ただし、魔法関連のものだけは手に入らなかった。それは、宇宙人の星には世界樹も虚界樹も無いため、魔法を使う為の魔素が無かったからだ。

 街には高層ビルが立ち並び、ビルの壁面には液晶ディスプレイが貼り付けられ、様々な商品の動画広告が再生されていた。地上では多種多様な宇宙人たちと、この星の原住種族が闊歩していた。地上には車の姿は無く、車は空を飛んでいた。

 宇宙港に空間転移してきたミリアを不思議に思う者も居なかった。それは、ミリアが転移した場所が、宇宙ステーションからの転移装置の出口であり、人が突然出現してもおかしくない場所だったからだ。

 ミリアは数か月前、フレアと共にこの街を訪れていて、この街と宇宙人について知識を持っていた。

(さて、まずは銃とシールドベルトを数本、それと医薬品があればいいか)


 ミリアは赤熊人の村に行商人を装って入るつもりだった。ミリアは、万屋よろずやと書かれた店に入った。店内にはいろんな商品が棚ごとに分類わけされて陳列されており、それぞれ値札が付いていた。店の奥には買取カウンターと普通のカウンターがあり、どちらも人が並んでいた。


(相変わらず。繁盛しているな。まあ、仕方ないか、宇宙人の作る物はどれも便利だし、この星の資源は宇宙人にとって魅力的だ。商売する者は後を絶たない)


 カウンターに並んで居るのは宇宙人が多いが、平野人へいやびと海底人かいていびと鉱山人こうざんびと空地人そらちびとの姿もあった。


 ミリアは買取カウンターに並んだ。レジには宇宙人である猫人が立っており、慌ただしく動いて客をさばいていた。それほど待たずにミリアの番になった。


「いらっしゃいませ~。買取でよろしかったですかニャ~?」

「はい」

 ミリアは宇宙人の言語を理解していた。

「鑑定いたしますので、お売り頂けるものをお預かりいたしますニャ~」

 ミリアは店員に言われるまま、買取カウンターの上に、数個の宝石を置いた。

「宝石ですね。お預かりいたしまニャ~。失礼かもしれませんが、お客様は身分証をお持ちですかニャ~?」

「いいえ、持っていません。この星の人間です」

「ああ、そうなんですね~。種族はなんですかニャ~?」

黒樹人くろきびと

 ミリアがそう言った瞬間店員は表情を曇らせた。

「少々お待ち頂いてもよろしいでしょうかニャ~?」

「構わない。先に言っておくが、敵対する意思はない。ただ、商売に来ただけだ」

「はい、畏まりましたニャ~」

 そう言って猫人は、カウンターの裏に入っていった。

(20年前の戦争の記憶は、まだ消えないか……。まあ、一方的に仕掛けてきたから報復を恐れる気持ちも分からなくは無い。だが、私たちと宇宙人では根本的に思想が違う。私たちは虚界樹を守れればそれでいい。その後、復讐だとか謝罪だとか賠償だとか、心底どうでもいい。もう二度と攻めてこないなら、友好的に接するだけなんだがな……)

 それほど、時間を要さず猫人の店員は戻ってきた。

「お待たせいたしました。黒樹人とは過去に因縁があったと思いますが、その件に関して報酬の上乗せを要求なさらないのであれば、交渉に応じます。だそうですニャ~」

「それで、構わない」

「鑑定には15分ほどお時間いただきますがよろしいですかニャ~?」

「はい」

「店内でお待ちになります?それとも時間を空けて来店されますかニャ~?」

「店内で待ちます」

「では、これが引換券になりますので、時間になりましたら、こちらのカウンターまでお越しくださいニャ~」

「はい」

 ミリアは、引換券を受け取って、店内を見て回った。

(ふむ、銃もシールドベルトも医薬品もバックも置いてあるな、全てこの店で準備が出来そうだ)


 時間になり、ミリアは買取カウンターでギャラクシー共和国の通貨で100万デルを受け取り、そのお金で必要なものを購入した。


「お買い上げありがとうございましたニャ~」

 猫人の店員の愛想のよい声を背にミリアは銃とシールドベルトと医薬品でいっぱいになったバックを背負い店を出た。

(念のため、服も替えて行こう)

 ミリアは、ジーパン、Tシャツ、ジャケットを購入して着替えた。


(さて、ここからが勝負だ)

「ポイント≪視覚外の場所への空間転移≫」


 ミリアは赤熊人の村の近くに転移し、にこやかな表情を作って村の入り口に近づいた。そこにはボルドが立って居た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る