第80話 自堕落美人


=====


依頼人:日月一絺ひづきいち

報酬金:内容に比例

依頼内容:大阪府〇〇市××町△△ー▲▲▲に来て欲しい


=====


「会いにこい?」


「……どういうこと?」


「……」


 蓮と美穂が、意味がわからないと言った声をあげる。


(これは……)


 どういうわけかは知らないが、俺への指名依頼は協会長が止めているっぽかった。確かに、こういう依頼が来まくってたら迷惑だし受けるつもりもないからありがたいんだが……先に言っとけよ。


(そういや、なんか一絺さんと協会長、知り合いっぽかったんだよな……)


 それで依頼を通したとか?

 まあいいや。


「怪しいから行かなくていいんじゃねえか? そもそも指名依頼の中でなんでこれだけ通ってんだよ」


「行く意味ない。それならダンジョンまわる」


「いや、行くからな?」


 あ、一絺さんの家ってどうなったんだろう……?

 あの夜のことは本当に“地震”で片付けられてたし、モンスターが出たとは一言も言われてなかったけど……つまりそれって、家も元通りになってる……はずだよな?


 家がモンスターにぶっ壊されたあのままだったら、流石にモンスターか何かが出現したって一目でバレるだろうし。


「いや〜でもたった数週間であの豪邸復建できんのかぁ? てか、街から離れた山の麓の土地とはいえ、見られる機会はあるだろうし、見られる前に復建なんてできんのか?」


「ん?」


「……?」


「いや、まあいいや。とりあえず、今日はここに行くぞ!」


 ひとまず、俺たちは指名依頼に向かってみることにした。


〜〜〜〜〜



 ピーンポーン!


「んぁ……んぅ? おお!! 千縁君!!」


「「っ!?!?」」


 俺がインターホンを鳴らすと、以前とは違ってすぐに声が聞こえ、一絺さんが出てくる。

 だが、それが問題だった。


 扉から出てきた一絺さんは、姿だったのだ。


 以前と同じように、寝起きのまま放っておいたかのような、少しボサついた前髪で右目が隠れていて、長さはその豊満な胸あたりまである。

 いや、実際に今起きたところなのだろう。

 

 シワの付いた白衣から、白衣を着たまま寝たことも一目瞭然だ。


 というか、着崩れた白衣が妙に艶かしい。

 背の高い美人というだけあって、学生には目の毒がすぎる。

 蓮と美穂が俺の服を掴んで後退し、声を潜めて問い詰めてきた。


「おい、ちよ、お前アイツとどういう関係だ!?」


「……すごく親しげ。犯罪?」


「大丈夫に決まってんだろ! 俺がそんなことすると思うか!?」


「?」


 二人の言い草に、俺も一絺さんに聞こえないよう反論する。

 こいつら何考えてんだ……


「まあ……確かに」


「……怪しい」


 おっ良かった、流石にそう本気では疑ってなかったか……ん??


「俺……なんかしたっけ??」


 ……なんで“悪童”こと蓮は信じてくれたのに、美穂の方がそんなに疑ってるんだ?


「……さあ。あなただったけど、


「??」


 俺が美穂の方を向くと、美穂はこちらを向かずに呟いた。


(……あ)


 もしかして……学園対抗祭での、悪鬼のことか!!

 あの時は全国に見せつけるため、深度Ⅱの【憑依】を使ったからな……メインの人格を渡していたから100%覚えてるとはいえないが、恐らくかなり挑発的なことを言ったはずだ。


(それで印象が良くなかったのか……)


 そこまでなんかやらかしたっけ? まぁ……今度機嫌とらなきゃな。


「えーっと千縁君、もしかして依頼で?」


「え、あ、ああ、はい。指名依頼でしたけどどうして……?」


「ん、ああ。話は中で。……もしやその二人は、パーティメンバーか?」


 俺たちがいつまでもヒソヒソ話しているからか、一絺さんが少しむぅ……という顔で覗き込む。


「ん……あれ、君たちは……“神童”神崎と、“悪童”鬼塚か!?」


「……そうだけど」


「おっ……そうだな」


「ほー! 千縁君はとんでもないのを連れてくるね……探索者業界に疎い私でも君たちのことは知っているよ」


「あ、あぁはい……ありがとう、か?」


「……」


 露出の多い一絺さんから目を逸らしつつ、蓮が答える。


「おお! “悪童”と呼ばれているらしいが……全然礼儀は悪くないじゃないか。でも“神童”の方は……」


「……」


 一絺さんと美穂の二人が、無言で睨み合う。

 と言っても、美穂の方はいきなり見つめられて少し戸惑っているようだったが。


「……まあ、噂通りクールなようだね?」


「……依頼内容は」


 美穂が身じろぎして、一絺さんに言う。


「……千縁君一人で良かったんだがね」


「え?」


 美穂の問いに、一絺さんがチラリ、と俺を見る。

 その瞳には、が渦巻いていた。



「まぁ、上がってくれ。中で話そう」

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