第81話 ボスモンスターの復活?


「さて……紅茶は好きかな?」


「あぁ〜……俺は苦手だ」


「……」


 一絺さんの言葉に、美穂は頷いた。


(はあ……まさか千縁君がパーティを組んでいるとはな……しかも、こんなめちゃくちゃなパーティ……)


 神童、悪童、そして革命児。

 想像を絶する光景に、面食らったのは秘密だ。


(しっかりした所を見せないと……)


「で……依頼なんだが、簡潔に言うと千縁君がしばらく通ってくれるだけでいい」


「え?」


「ちよが……?」


「……?」


 一絺さんが、意図の分からない発言をする。


 ……よく見れば、なにやら美穂が一絺さんのことをジッと見つめているな。

 一絺さんがビクッとするが、多分美穂は怖がらせてる自覚ないんだよな……


 実際、普段から無表情な美穂だが、それを知らない人からすれば機嫌が悪いように見えるのは仕方ないことだ。


 そして、“神童”ともあろう美穂の睨みは破壊力抜群。


(今度注意しとこ……)


「えーっと、一絺さん、どういうことですか?」


 とりあえず、何故呼ばれたのかをきちんと聞いておこうと、俺は紅茶を美穂にスライドして座り直す。


 ……ちょっと一絺さんが悲しそうな顔したな。何故ゆえ。


「……ふっふっふっ、聞いて驚け! 実はな……」


「「「??」」」


 俺の問いに、一絺さんは少し溜めて、ビシッ! と俺のことを指さす。


「ボスが復活していたのだ!!」


「「はっ?」」


「……え? って……ええええええええええええ!?!?」


 思わず、椅子からひっくり返る勢いで驚いた。てかまじでひっくり返った。


「ち、ちよ?」


(い、いや、驚けとは言ったが……言ってることめちゃくちゃだぞ!?)


 シンガポールのゴールドダンジョンによると、ボス以外のモンスターがいないようだが、ボスモンスターは倒した後未だ復活していないらしい。

 それに、海外では攻略されたダンジョンも多々あるが、ボスの復活なんてものは聞いたことがない。


 まあ何度も言うが、ダンジョンについては未だ9割謎だ。有り得ない、なんてことは有り得ない。


 ……が。しかし、これは流石に嘘だろ……と疑うしないだろ。


「そ、それって! 大丈夫なんですか!?」


「あ、ああ。だが今検証中で、手伝って貰いたいんだ。があった手前、再びのは正直怖いが……それでも私は、んだ! やらなきゃいけないんだ!」


「え、でも、一絺さんは……」


「この気持ちは我慢できないんだよ! それに、千縁君じゃなきゃダメだ! と、とにかくまずはゆっくりと話し合おうじゃないか!」


 一絺さんが握りこぶしを作りながら熱弁する。


(研究に対する熱意は相変らず凄いな……って待てよ? その部分の強調は確実に……!)


「おい……ちよ?」


「……犯罪」


「い、いや、違うって!! 誤解だから! 一絺さんも何か言って……あ」


 俺はそこまで言って、一絺さんの方を振り返った。

 そこには、ネグリジェの上にシワついた白衣を着、寝起きの髪は片目を隠すほどにうねっている、自堕落な姿が。


(い、いや、でも、前見た時よりなんか綺麗に……大差ねぇ!)


「ん〜? ど、どうした千縁君、そんなに見つめて……」


「あぁ……いや、なんでもないです──で!! 復活ってどういうことですか!?」


 クソッこれなら勘違いされるのも仕方ない……か? いやいやいや!

 両サイドの視線が痛くて、俺は一絺さんを問い詰める。なんか顔が赤い一絺さんは咳払いをして、キリッとした顔で書類を取り出した。


 ……せめて右肩の布あげてくれませんか。


「ゴホンッ! えっとだな……あの後復建していた時……地下にダンジョンが残っていることを確認したんだ。そして、その時海原……大阪の協会長がいたから、念のために見に行ってもらったんだが……ボス部屋の扉が復活していた」


「嘘だろ……?」


「な、なあちよ! どういうことだよ!? 説明してくれ!」


「……ダンジョン、クリアした?? 本当に??」


「あ、あぁ……ちょっと、待て」


 二人は話についていけず、慌てて説明を求めるが、俺の内心はそれどころじゃなかった。


(まさか復活型かなんかか……!? それとも、取り逃した!? もしまたアイツがダンジョンブレイクを起こしたら……今度こそ、一絺さんは……!)


「で……ボス部屋の奥から、物音も聞こえたんだ。しかし……」


「しかし……??」


 とりあえず二人に前の依頼を説明して、静かにさせる。


「音が、んだ。」


「「「え?」」」


「あの時のような、機械の如き重低音でもなく、どちらかといえば大型昆虫が這っている程度の、わずかな音だった。もちろん、機械音ではあるが」


「それって……」


 俺の言葉に、一絺さんは立ち上がって両手を広げた。


「そう! 出産型モンスターかもしれないのだよ! 何せ、このダンジョンはイレギュラーばかりだからな!」


「!!」


「何??」


「出産型……!」


 かつてダンジョンが出現した初期。

 魔力値が上がりやすいモンスターや、処理が簡単なモンスターを養殖して人類を強化しようと、誰もが考えた。

 しかし、どのような薬を使っても、オスメスが明らかにわかるモンスターを使って実験してみても、それは叶わなかった。


 それどころか、昨今に至るまで蜂のモンスターや虫のモンスターであっても、産卵が確認されていないのだ。


 そのことから教科書にすら、モンスターはダンジョンの力で生成されるとされており、交尾や出産はないと書かれている。


「ああ……! 復活か、あるいは子を産むモンスター……いずれにせよ、世紀の大発見間違いなしだ! だから、これは調査するしかないと思ってね……」


 一絺さんは、少し恐怖を孕みながらも、行くという確かな覚悟を持った目で立ち上がった。

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