第75話 ダンジョンブレイク


「──だよな〜……? お、おい、あれ!」


「わかる! ……ってどうした? 後ろに何か……!?」


 すっかり暗くなった、冬の夜空。

 突然、街の静寂を破る振動が響き渡る。


 それに、夜道を歩く二人の男子学生は振り返り、を見た。


「あ、ああ……」


「な、なんだよ……あれ……」


 ぼんやりとしか見えない距離にある山肌に、光を反射する何かが出現していた。


 その距離なのに、しっかりと見える巨大な何かが、動きだす。


「ヴオオオオオオオオン!!!!」


「「「キャアアアアア!?」」」


 蒸気の突風が吹き荒れる。

 そんじょそこらの家なんかより数倍大きなが、咆哮したのだった。


〜〜〜〜〜


「ごほ、ごほ……う……ここは?」


 辺りがとても暗い。

 それに、床がやけにゴツゴツしている……


「ヴオオオオオオオオ!!!!」


「ひゃああっ!?!?」


 すぐ近くで、あの轟音が聞こえる。


(そうだ……私は……)


 あの圧倒的な威圧感を持つボスに追いかけられて……想定以上の圧に腰を抜かして……


「お、お姫様抱っこされて……うぅぅ……! そ、そうだ、千縁君は!?」


「目を覚ましました?」


「うおっ!?」


 千縁君が、天井を突き破って、手を伸ばす。

 どうやら私は、何かの球体のような物の中にいたらしい。


(これは……木の……根っこ??)


「どうやら、あいつ、地上に出たようです」


「っ!!!!」


 まさかダンジョンブレイク!?

 

 ダンジョンブレイクとは、ダンジョンの中のモンスターが外に出てしまうことだ。

 まずい……! あんなものが街に出たら……!


(大阪の人々が皆殺しにされてしまう!!)


「い、急いで応援を呼ばなくては!!」


 しかし、私とは裏腹に、千縁君の声は先程までよりも一層、冷静だった。


「落ち着いてください、一絺さん」


「し、しかし! 急がねばならない!! 奴が街に出たら……!?」


 そこまでいって、私は異常に気づく。


 巨大化した鋼鉄のボスが、その場で咆哮するばかりで動かないのだ。

 いや、のだ。


「ヴオオオオオオオオ!!」


 その足元には、巨大な樹の根のようなものが無数に絡まっており、動きを封じていた。


「な、何が……」


「安心してください、一絺さん」


 千縁君はそういうと、ボスの方へゆっくりと歩いていく。


「ち、千縁君! ダメだ! 一人で行ってはそいつに……!!」


 私は、超級探索者級だとしても、彼が先程勝てなかったのを思い出して止めようとする……が、彼は止まらない。


「そ、そうだ、海原に連絡を……!」


 急いで協会長の海原に連絡しようにも、半壊した家の三階に行って携帯を探すことはできない。

 階段は全て吹き飛んでしまったからだ。

 それに、携帯も衝撃で壊れているだろう。


 客観的に見てもオロオロと右往左往していた私に、千縁君はふう、と息をついて、振り返った。


「大丈夫です……あいつが地上に出てきた瞬間に、あいつが死ぬのは決まりましたから」


「っ」


 その気配に、私は思わずヒュッ、と息を呑む。

 突如千縁君に、今まで感じたこともない……あのボスをも凌ぐプレッシャーがまとわりついたからだ。


「よお、苦しんでるなァ?」


「ヴオオオオオオオオ!!!!」


 千縁の言葉に、ボスは再び無数のミサイルを射出した。

 そして、その数は百を超える。


「ち、千縁君!!」


 思わず手を伸ばすが、もう避ける時間はない。

 私は死を覚悟して、ギュッ、と目を瞑った。


(お母さん……)


 そして──





「俺がお前を叩きのめせなかったのは、地下が崩落してしまうからだ! お前はダンジョンブレイク成し遂げて、してやったりと思ってるだろうが……してやったのはこっちなんだよ! 【憑依】────悪鬼!!」


 刹那、先ほどまでとは圧倒的に桁が違うが吹き荒れた。

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