第74話 逃亡劇


「はぁ、はぁ……!」


「ちょっ、一絺さん、大丈夫ですか!?」


「だい……はぁ、はぁ……あっ」


 現在十階層。

 走り出してまだ100メートルも行ってない。


 俺は一絺さんの手を取って走るが、速攻一絺さんがずっこける。


「え!? すげぇ汗……!? た、立てますか!?」


「は……はぁ、はぁ、はぁ……ぃ」


 躓いたのかと思いきや、どこにも怪我の様子は見えない。


「ヴオオオオオオオ!!」


 そうしているうちにも、走り出したボスはすぐ後ろまで迫る……!


「かひゅー……かひゅー……」


「ちょっ!? 死にかけてないですか!?!? それ死戦期呼吸ですって!」


 まさか50メートルも走ってないのに体力切れか!? 嘘だろおい!?

 クソっ……だが、ここに一絺さんを置いていくわけにはいかない。


「っ……一絺さん、しっかり捕まってくださいね!!」


「ヒュー……ヒュー……?」


 俺は【憑依】を解除し、一絺さんを抱き抱える。

 そして、追いつかれないギリギリの速度で来た道を引き返して行く。


 全力で走れば、風圧やら空気抵抗やらで一絺さんが死んでしまうからだ。


「ひゃ、ひゃああああああ!?」


「舌噛まないように気をつけて!」


「あ、あぃ……」


「ヴオオオオオオ!!!!」


 なんだ……?

 

 最初は意外と速いな、くらいの認識だったのに……なんか速くなってないか?

 

「ひゃあっ!」


 ボスの巨大な鉄腕が、俺たちのすぐ後方の壁に叩きつけられ、轟音と衝撃に一絺さんが短い悲鳴をあげる。


(間違いない……! あいつ、加速してる!)


 最初は一般人でも全力で走れば同速……くらいだった。

 だが、今は数倍以上の速度だ。


「って、うお!?」


「ひゃっ!!」


 そして九階層に上がったその時、目の前に瓦礫が落ちてきて道を塞がれる。

 それは、天井が崩落したことに他ならない。


(なんだ!? そうそう簡単にダンジョンの壁は壊れないはずだぞ……!? それにまだあいつは十階層に……!)


 そこまで考えて振り返り、気づいた。


「……! あいつ……!」


「な、なんか、大きくなってないか!?」


「ヴオオオオオオオ!!!!」


 明らかにおかしい。

 後ろには、未だ十階層に足をつけているボスの頭が、九階層にいる俺たちの頭より高い位置にある。


「速くなったんじゃない……歩幅が変わったんだ!!」


「ヴオオオオオオン!!!!」


「ひゃああああああ!!」


 ボスが腕を振るうたび、上方や後方から崩れゆくダンジョンの瓦礫片が襲い来る。

 それを避けながら、俺は瓦礫の壁を蹴り飛ばして地上へと向かう。


「お、おひっ……お姫様……っ」


「????????」


 なんだこの人? この状況でいきなり意味わからんこと言い出したぞ。


 そうして逃げること30分。


 何時間にも感じられた逃亡劇に、終わりが見えた。


「でっ出口だ!」


「……!」


 一絺さんがそう言うが早いか、ボスがまるで脱出を阻止するがごとく何かを飛ばす。


「!?!?」


「なっ……あ、あれはなんだ!? ち、千縁君!!」


 あれは……ミサイル、か!?


 無機質な筒が二十本。


 無情にも、それらは脱出目前のと一絺に直撃したのだった。















​───────​───────​──────

狭い洞窟でミサイルが直撃…!?

本日三話投稿です!!

定時の18:31分、21:31分にも更新します!

お楽しみに!

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