第73話 無敵の敵
「ヴオオオオオオオオ!!!!」
「なっ──ガハッ!!」
「!! ち、千縁君!」
おびただしい量の血が吹き出したかと思えば、瓦礫の中からそれが飛び出す。
それは、千縁の体を薙ぎ払って吹き飛ばすと、そのままの勢いでボス部屋の壁までをも崩壊させた。
ドガアアアアアアアアン!!!!
「ひゃ、ひゃあああああ!!」
「っ! 一絺さん! 立って!!」
飛び出したのは、ボスだったもの。
背や肩から突き出していた管が、まるでパイプのように蒸気を吹き出し、目元さえもシャッターのようなものが降りて
もはや、生物としての面影はどこにも残ってなかった。
(なんかやけにロボットみたいな見た目だなと思っていたが……!)
いや、これもスキルの一つなのかもしれない。
スキルについては未だ何もわかっていないからな。モンスターの使うスキルには特殊なものもたくさんある。
「ほ、本当に特殊なダンジョンだったんだな……これを捉えられれば研究が捗るぞ……ハハハ……」
確実な“死”の気配からか、一絺さんの声から諦めの色が見える。
「ちょっ、しっかり! 崩れますよ! 逃げましょう!!」
千縁の言葉に、一絺は乾いた笑みを見せた。
「わ、私はダメだ……どうやらボスの迫力を見誤ってたようだ。私は思ったより、ビビりだったのかもしれないな……はは……一般人の分際でダンジョンに入ろうなんて、私がバカだったんだな」
「一絺さん……」
(いや……一絺さんは悪くない。普通の中級ボスなら、超級を超える俺の力で安全マージンを取ったまま撮影もできたはずだった!)
しっかりと計算されて出来た企画、計画書。
かなり高い、生産系スキルで作られたスーツも着ていた。
恐らく、問題なかったはずだ。
問題行動ではあるが。
しかし、イレギュラーはダンジョンにとって付き物だ。
どれだけ確実に練られた作戦でも、イレギュラー一つでパーティが全滅、なんてのはよくあることだ。
「まあ、もう……遅いようだがな……はは」
(俺が躊躇してなかったら……! 最初から崩落を恐れず全力で叩きのめしていれば……いや、そうすれば結局崩落していたのは変わらないのかもしれない)
クソッ! 考えてもしょうがない。
『千縁! あやつは“無敵”じゃ! 一旦引け!』
「無敵!?!?」
ボスは依然その体から蒸気を放出し、まるで自我を無くした機械のように咆哮している。
そんなバカな……超級ダンジョンと言われている、十年前の超級パーティ全滅事件のボスでさえそんなぶっ壊れたゲームのようなスキルはなかったはず……!
(それが、状態異常:無敵だと……?)
『
「くそ……なんでこんなやつが中級ダンジョンにいるんだよ……!」
仲間の一人が、脳内で教えてくれる。
俺の眼と耳が異様にいいのは、こいつの契約者である副作用であるからと言うのもある。その大元からの情報だから、間違い無いだろう。
「ヴオオオオオオオオ!!!!」
そして考える暇もなく、ボスが高速で動き出した。
「クソ!? お前その見た目でそんな早く動けんのかよ!?」
要塞のような見た目に反したスピードだ。狭い場所で制限を喰らってたのはこっちだけじゃ無いってことか……!
「一絺さん! 早く立って、走って! 本当に死にますよ!!」
「あ……ああ……!」
そこでようやく、一絺さんが立ち上がる。
そうして、俺たちとボスの生死を賭けた鬼ごっこが始まった。
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