第72話 異常


「ウオオオオオオオ!!!!」


「こ、これがダンジョンボス……!」


 たった二十畳ほどしかない部屋の中には、鋼鉄の鬼がいた。


 そう表現する他ない見た目のボスモンスターの背丈は、5メートルほどある天井ギリギリまである。

 全身があやしく光る謎の金属……ダンジョン鉄でできており、ロボットの如く全身には丸みがない。背や肩辺りからは噴出口のようなものが複数飛び出しており、その重圧感と威圧感は相当なものだ。


 ボスの放つ威圧感に、一絺さんがカメラを撮り落として尻餅をつく。


(おい……どうなってる? こいつ……明らかに中級ボスレベルじゃねぇぞ!?)


「グオオオオオオオ!!!!」


「っ! 危ない! 悪鬼──!!」


 即座にが【憑依】を使う。

 後ろで腰を抜かしてしまった一絺さんを庇うように、は三叉槍を構えた。


「ハッ! 【虐殺】!」


 ガキィン!!


「ウオオオオ!?」


 の一撃がボスの腕を塞ぎ、その軌道を逸らす。


「チッ! ……一絺さん、大丈夫ですか!?」


「あ、あぁ……ぅっ……!? ち、千縁君、その姿は……?」


 一絺がを見て、驚きと恐怖の入り混じった声を上げる。


 原因は当然、いつの間にか千縁が白髪に角の生えた見た目に変貌していたからだ。

 しかし、その姿は対抗祭の時と違い、髪も伸びてなければあの時ほど大きな角でも牙でもない。


スキルです! それより、やっぱり危険ですから離れてください!! 明らかに中級レベルじゃ──」


「ウオオオオオオ!!!!」


「クッ……!?」


「千縁君!」


 は一絺に離れるように言うが、その瞬間、ボスが先ほどまでとは一線を画す速度でに腕を薙ぎ払った。

 

 なんとか三叉槍を盾にしてそれを塞ぐも、その質量に押されての体は壁に激突した。


「ぐうぅ……舐めるな!!」


「グオッ!?!?」


 そして今度はが、その腕力でボスの腕をかちあげる。

 

「喰らってろ! 【劫源煥擽ごうげんかんりゃく】!!」


 ジュワッ!! っと鋼鉄が溶ける音がする。


 の三叉槍から溢れ出した地獄の業火が、ボスの体表を焼いたのだ。

 地獄の業火が、その名に相応しい速度でボスの金属肌を延焼する。


「グウオオオオオオオオオ!!?」


「一絺さん!! 早く!!」


「あ、あぁ……」


 が一絺に言うが、腰の抜けてしまった一絺は動けなかった。


(チッ……想像以上の強さだな……! おかげで一絺さんは完全に圧倒されちまった!)


「ウオオオオオオオオ!!」


「……クソが」


(やるしかないか……?)


 がそう、全身に力を溜めた──その時。


「【憑依】──深度」


「は、離れろ!!」


「!!」


 一絺の声に、は一瞬でその場を離れた。

 直後……


 ガアアアアアアン!!


「ウオオオオオオオオ!?!?」


 凄まじい力と力のぶつかり合いに、耐えきれなかった天井が崩落する。


 ドドドドドドド!!


 ボスの姿が、完全に瓦礫の山に埋もれた。


「なんだ……?」


(まあ、いずれにせよチャンスだ。身動き取れないこの空間で、確実に防御されない今なら……!!)


 は、三叉槍を後ろ手に引き絞り、左手を顔前に持ってくると、両足を深く開いて重心を落とし、力を溜める。

 その構えは、いつかみた“悪童”、鬼童丸の見せた……まさしく、だった。


「行くぜ──【悪逆阿修羅】!!」


 鬼童丸のそれとは、比べるまでもなく完全な構え。

 力を溜めたその構えから放たれた攻撃は、圧倒的なまでに暴力的で……一切の隙が無い、な連撃だった。


 ガンッ!! ガンッッ!!!


「オラァ! オラ、オラァ!!」


 ドガンッ! ドガンッ!! ドガンッ!!


 無慈悲なまでの連撃が、瓦礫の山に叩き込まれる。


 やがて、瓦礫の山ごとボスの装甲を叩き斬ったか、瓦礫の中からおびただしい血が噴き出した。


「はあ……はぁ。死んだか」


「……!」


 が三叉槍を担ぎ、振り返った、その時だった。


「ヴオオオオオオオオオ!!!!」


「「なっ──!?!?」」



 瓦礫の山から、が飛び出したのは。

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