第69話 地下ダンジョン


「そのダンジョン、異様なまでにんだ」


「小さい……?」


「ああ。入り口は一人くらいしか通れず、一人づつ複数人で入って行ったとしても、中は通常の何倍も狭い……とにかく、小さなダンジョンなんだ」


 一絺さんが俺の言葉に、そう返す。


 なるほど……。

 上級探索者となればそうそう何百人もいるわけではない。

 しかし推奨級というのはあくまでパーティでの指標であって、中級探索者一人では中級ダンジョンを攻略するなんて不可能だ。

 それに、推奨級があるのは探索の場合であって、じゃない。

 

 他のモンスターと一線を画すボスモンスターを倒すなら、上級探索者パーティが必要だろう。


 それを一人で……なるほど、どうりで超級依頼になんてなるわけだよな。


「二人以上で入ると魔法は味方を巻き添えにする確率がほぼ100、一人で倒すのが一番効率いいのさ。そうなると自然に超級依頼になり……こうして君が来るまで2年半も待ったわけだ」


「二、二年半も待ってたんですか!?」


 俺の言葉に、一絺さんは少し遠い目をする。


「昔からボスモンスターを解剖できれば、何かこの世界にモンスターが現れた理由を解明できるんじゃないかと思ってな……。それに、スキルの仕組みとかもわかるかもしれない」


 そうすれば人工的にスキルを発現させることができるかもしれないな、と一絺さんは付け足した。


 人工的にスキル……


 もし、そんなことができれば……


(探索者になる夢を叶えられない、なんていうことはなくなる!)


「流石大研究家ですね! 人々の助けになる糸口を……」


「しかし、思いついたはいいも当然、私の考えは馬鹿げてる、と全ての伝手つてに断られてしまった。それでもどうしても諦められず依頼を出したままだったんだが……」


 そこで一絺さんがグルッとこちらを振り向く。

 なんでだ? 嫌な予感が……


「そこで君が来たというわけだ! 若き超級探索者!! だから、君には必ず成功して欲しいんだ! 超級探索者の君なら……!」


「ち、近いですって!」


 一絺さんが俺の肩を両手で掴み、揺さぶる。

 そしてその衝撃で、俺の胸元から一枚の赤いカードが床へと落ちる。


「だからぜひたの──ん? 何か落ち……」


「あっ!」


 一絺さんはそのカードを拾って、ピシッと固まる。


「じょ、上級探索者?」


 え……えっ? と一絺さんは俺の方を何度か見て、探索者証と示し合わせる。


「えー……まぁ、一応上級探索者なんですよねー……」


「何!? それなら、どうして……!」


 まずいな……バレたか。

 いや、そりゃそうだよな。バレずに行けるかもと思ってた自分が恥ずかしい。


(どうするか……力を証明してもいいけど……そもそも違法依頼ってことが連絡されたら……)


 この人は金持ちの生まれらしいし、聞く感じかなりの数のパイプを持ってそうだ。もし通報されたら……


「……まぁ、協会長が君を行かせたんだよな?」


「!! はい、そうです」


「はあ……それなら何かしら、理由があるんだろうな。超級依頼を君に任せた、何かが……」


 あぶねえええええ!!

 助かったか!?


 一絺さんが規則に寛容な、頭の回転が早い人でよかった……。


 てか、大阪代表の協会長もそうだけど、偉い人に限ってルールを破ったり、その辺フランクな人多いよな。


 この国大丈夫か。誰目線なんだよって言われたらそうなんだけど。


 って、まてよ? いくらなんでもそれで許されるのか? 協会長が言ったんだろうって……もしかして?


「……とりあえず、案内しよう。中で準備運動しておけばいい。は十階層しかないからな。すぐ奥まで下見はできるはずだ」


「はい! ……って、?」


「ああ。この家の地下に、入り口があるからな」


 そう言うと、一絺さんは俺の手を取ってエレベーターまで案内してくれた。


(やたら不自然に庭が広いなとは思ったけど……まさかここの地下にダンジョンがあったとは)


 庭が不自然に向かって左側にだけ広かったからな。どうなってんだとは思ってたけど……


「じゃあ先に行っておいてくれ。一時間後には一階層集合で」


「え、一絺さんも入るんですか!?」


 俺の驚愕の声に一絺さんは反応せず、さっとどこかへ姿を消してしまった。


「まあ……いいか」


 それよりさっき、結構実力疑われちゃったしな。

 さっさと道中掃除しておきますか!!



「【憑依】──悪鬼」

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