第68話 ダンジョンの所有者
「当然、ボスモンスターさ!!」
「……はああああああ!?」
一絺さんはなんでもないかのように言い放つ。
ダンジョンの最深部にいる、そのダンジョンの
ダンジョンは、ダンジョンボスを倒した後にある部屋に入ると消滅する。その部屋には当然、報酬が盛りだくさんだが、問題はこの部屋には入れない、ということだ。
というより、ボスモンスターは倒せない、という問題だ。
なぜなら、ダンジョンボスを倒さない限りダンジョン内ではいくら倒しても一定時間後にはモンスターが発生する。そして、モンスターを倒すことで得られる魔力値で探索者は強くなり、モンスターを倒すことで手に入る魔石は超効率のエネルギー資源になり、ごく稀に手に入る宝箱はモンスターと同じく一定期間で出現し、超常の
そんな国の資源源を、勝手に消していいわけがないんだよなぁ。
報酬部屋で報酬を受け取らなければダンジョンは消えないが、ダンジョンボスが倒れた時点でモンスターや宝箱の
恐らくそんなことをしたら政府から何か言われそうだ。
最悪の場合罰金とか……
「当然、ある程度の強度が欲しいから中級ダンジョンのボスが望ましい!」
「いやいやいやいや、ちょっと待ってください!」
なんでこの人キョトン? って顔してんだ!
明らか寝起きで髪もボサボサなのに、妙に性に合っていてちょっとドキッとしてしまう。
ってのは置いといて。
「なんだい? 中級ダンジョンボスくらいならまぁ、なんとかならんこともないだろう?」
「いや、ダンジョンボス倒したら法律違反じゃ……!」
俺がそういうと、一絺さんはアッという顔をして、ニヤリと笑った。
「あぁ、そういうことか。若いのにしっかりしてるね〜。依頼人のことだから、何も考えずやればいいんだよ?」
「いや、重大な犯罪ですよ。倒さなくても、生け捕りにするだけで
そもそも、生け捕りということが問題だ。
暴れ狂うダンジョンモンスターを、地上まで連れて行くだけでも困難を極めるというのに、その後地上に運ばなきゃいけないんだろう
それに、ダンジョンには探索者の
中級ダンジョンといえば、
いくらなんでも生け捕りとすれば、厳しすぎる。
「大丈夫だ。バレなきゃ犯罪じゃない」
「バレるわ! ちょっと!?」
「ははは、冗談だよ。……実際、中級ダンジョンの内一つは許可が出ているんだ」
許可が出ている……?
中級ダンジョンといえば、最も手頃な難易度とそこそこのアイテムが出るから、国資源としては一番大事だと思うが……
「この私を疑ってるね? なぜ最も多い下級探索者が背伸びすれば探索でき、次に多い中級探索者がよく使い、上級探索者が安全マージンを取って探索できるという、最重要のレベルのダンジョンを消す許可が降りているのか」
「ま、まぁ……その通りで……」
俺の考えを見事に当てて見せた一絺さんは、得意げに言う。
「それは、私がそのダンジョンを所有しているからだよ」
「…………は?」
ダンジョンを……所有してる??
「そう。私はこの俗世で言うところの富豪の生まれでね。訳ありとはいえ、個人資産をほぼ全て投入して買えたのさ」
いやいや待てよ。
何やら訳ありだったらしいとはいえ、中級ダンジョンを個人所有って……嘘だろ?
一体何百億かかるんだよ……
「……」
「はは、呆然とした様子だね。面白い顔だ」
一絺さんが意地悪な顔をする。
「…………で、訳ありっていうのは?」
聞きたいことが大量にあるんだが……
なんとか現実に復帰しつつ、揶揄うように笑う一絺さんに向かって出た言葉は、それだけだった。
それに対して、一絺さんの答えは……
「ああ、それはね──」
「──そのダンジョン、小さいんだ」
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