第66話 二億の依頼


「宝晶、何かお困りの点でも?」


「きょ、協会長!? いつの間に……!?」


 俺がポツリとそう漏らした時、瑞樹さんの背後に隠れていた真さんが現れた。


「協会長、二億五千万稼げる方法ありませんか?」


「おお!? 全く宝晶は驚く様子がないな……白川くらい驚いてくれたらいいのに」


 白川……? あ、そういえば瑞樹さんの苗字白川だったな。

 てか、なんで俺は女性のこと名前で呼んでんだ……? いや、男もだけどそんな陽キャみたいなこといつから……


(あっ! の影響か!!)


『フッフッフ……どうした? 問題が?』


「で──二億五千万? 急にそんな大金どうすんだよ?」


「家買います」


「「「……」」」


 協会長と瑞樹さん含め、周りの人が沈黙した。

 解せぬ。探索者とは本来自分の望みのために頑張る職業だろ。


「ふは、ふはははは!! そうか、良い家を買いたいらしいな! それなら、良い依頼があるぞ」


「えっまじで??」


 いやあるんかい。

 そんな都合いい話ある?


「ああ。二億五千万は無理だが、二億報酬の依頼はある。超級だがな」


 超級依頼って……日本に超級探索者は十人ほどだぞ? その超級探索者に依頼を頼むなんて……やっぱそれくらい危険で、依頼料も高くなるんだな。


「って、俺まだ上級探索者ですよ?」


「超級の“神童”に勝っただろ。それに、学園長たちを除けばこの辺の超級探索者は『アレクシスの牙』リーダー、“雪鬼”氷室勝瑞ひむろしょうずいくらいだ。あいつがパーティ優先な以上この依頼はかなり腐るのが確定なんだよ。てか2年前のだし。それならお前に解決してもらった方が依頼主にとっても幸せだろ?」


 おお……勝瑞さんか、久しぶりに聞いた気がするな。

 あの説はお世話になったもんだ。


「でも、それっていいんですかね?」


「依頼主が知る由はない!」


「オイ」


 探索者の街、大阪。

 そこのトップがルール違反って……大丈夫かよ。

 

 まあ、探索者の模範といえば模範だが……協会長としては流石にダメだろ。


「まあ、協会長が許してくれるならぜひ受けますけど……依頼一つに二億って、どんな依頼なんですか?」


 そう、それが問題だ。

 いくら超級探索者向けと言っても、一回の依頼で二億とは、超級探索者なりたて(ダンジョンに毎日潜らない)の年収の二倍だぞ?

 極級探索者の天星祐也からしたら普通かもしれないが。


「依頼はなぁ……」


 協会長がフッフッと笑う。


(なんだ、なんか嫌な予感が……)


「モンスターの捕獲だ!!」


「……はぁ!?」


〜〜〜〜〜


「住所はここだが……」


 大阪の外れも外れ。

 こんな田舎みたいなところがあるとは思わなかった……。

 と言っても、そこにあった家は超豪邸。

 巨大な庭もあるし、庭園のような噴水まである。


「でも、なんかまだ嫌な予感がすんだよなぁ……」


 どういうわけか、依頼を提案された時から嫌な気配が拭えない。


『一応、警戒しとけよォ? まあ、あの中に危険な気配はないが』


「ああ」


 嫌な気配がするが、立ち止まっていても解決しない。

 俺は少し不安ながらも、インターホンを押した。


 ピーンポーン!


「……ああ、はい。また今度」


 ガチャンっ!


「……は?」


 え、なんか切られたんだが。

 しかもなんか妙に手慣れてやがったぞ。まるで提携文のようだった。


 ピーンポーンピーンポーン!!


「だぁかぁらぁ〜子供に言わせたって無駄だからな! 私は」


「依・頼・で・来・ま・し・た!!」


 何やら再び女性の声が聞こえ、すぐ切ろうとしているように感じたので、上から被せて依頼で来たと伝える。


「え? 依頼? 依頼なんて……いや、まさか……??」


 その瞬間、女性は ああ! と叫んだ。

 どたどたと家の中から音が聞こえる。


 そして、勢いよくドアが開かれた。


「はぁ、はぁ……やぁ、少年……とりあえず、中にどうぞ……はぁ、はぁ」


 扉から現れたのは、前髪ボサボサな、長髪の女性だった。

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