第64話 上級探索者


「おお……これが上級探索者証赤色のカード!」


「おめでとう! 神童に勝った時点で当然だが、試験は文句なしの合格だ!」


 大阪探索者協会長真さんが笑顔でカードを渡してくれる。

 赤い身分証明証探索者カード。紛れもなく“上級探索者”を表すカードだ。


 まさか俺が人生でこのカードを手に入れるなんて、数ヶ月前では考えもしなかった。


「ちよって、なんか変なところで喜ぶよな」


「……ズレてる」


「はー!? 上級探索者カードだぞ! これで俺上級探索者だぜ!? 夢見たいだろ!」


「私に勝っといて何言ってるの……」


 パーティメンバーの二人がなぜかため息をつく。

 二人は中学生から持ってたからありがたさが分からないんだよ!


 いや、自分の実力を証明する物だからありがたみとか意味わからんけどさ。


「よし! 今日はお開きで──」


「させるか!!」


「うぇっ!?」


 俺は自然に解散の流れに持って行こうとして……蓮と美穂に掴まれた。


「……パーティだから、スキルや戦闘能力の把握は必須」


「ちよが大好きな“命に関わること”だぞ! 誤魔化させないからな!」


「いつ俺がそんな言葉好きって言ったよ!」


 恐らくさっきダンジョンで喧嘩していた二人を止めるために言った言葉だろうが……一回言っただけだろ!?


 しかし、否定できる理由が微塵もねぇ……


 俺は再び、適当に憧れだからとパーティを組んでしまったのを後悔した。


『クハハッいい様だなぁ、千縁?』


 悪鬼が揶揄うように笑う。


「くっそ……まあ、そうだ……な。さっさと済まそう」


 俺は諦めて、詰め寄ってくる二人の質問に答えていった。


〜〜〜〜〜


「はぁ〜! 飛んだ目にあったな全く!」


『……あれだけか?』


 俺は家に帰って開口一番、ため息をつきながらどさっと椅子に座り込んだ。

 硬い木の感触がする。

 一人暮らしで超貧乏だった俺のアパートに、ベッドもソファもないからな。


「いやーでもほんとに助かったよ、。俺結構顔に出ちゃうらしくてさ。A型だからか? 嘘つけないんだよな〜」


『……まあ、ちよの頼みならいい』


『ああ? 相変わらず仲良いなぁ、お前ら!』


 そう、先ほど俺は仲間の一人を憑依させて対話をしていたのだ。

 外見に変化がない唯一の仲間で、相棒。


 門の中では結構特殊な出会い方をしたもんだからな。


「……てか、引っ越さね?」


 俺は改めて辺りを見回す。

 月家賃5万のボロアパート。親から未成年だし支援は出てるが、生活費ギリギリの一人暮らし。


(あの野郎……)


 親のことを考えると、ついはらわたが煮え繰り返りそうになるが堪える。

 そんなことより、蜘蛛の巣もあるわダンボール散乱してるわ適度にG出るわのクソアパートにこれ以上住んでられるかってんだ!


「うーん、今の俺ならもう少し遠くても学校には秒で着くし、危なきゃ“悪鬼”も公開してるから自由に使えるだろ」


 昔はこれ以上離れると朝学校に行くのが不可能なレベルだったのだが、今の身体能力ならもう少し範囲を広げてみれる。

 そうすれば前はなかった空き家も見つかるだろう。


「じゃあ明日は不動産屋か……ダンジョンで金も稼がなきゃな……一軒家って何円するんだ??」


 ……とりあえず、今の俺ならもう大丈夫だろう。

 俺は連絡先(一桁)の内の一つをおして、メッセージを送っておいた。





──母

18:31 もう仕送りいらないし関わらなくていい。連絡不必要



 





















────────────────────


一体千縁くんの母は、何をしたのでしょうか。

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