第61話 千縁の初パーティ


キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン


「よーしお前ら座れー」


 月曜朝。

 いつも憂鬱にしか思えてなかった朝も、そろそろに会えるかもしれないと考えると楽しい。


「いやーまじで、すごい景色メンバーだな。俺がこんな景色を見るとは思っても見なかった……もはや俺が教えてもらわなくちゃいけないはずなんだが」


 担任の鈴木が、教壇に立ちつつ言う。


 鈴木が言う景色というのは、当然A組の一列目のことだ。

 最前列窓際から宝晶千縁、神崎美穂、加藤俊介、森山竜二、岩田悠大、田中三郎。


 成績順に座席が決まるとかいう古のルールによって生み出されたこの景色は、一介の中級探索者教師からすれば戸惑いが10割だろう。


「……」


「うっ……」


 やたらと隣の美穂が見てくるのが気まずい。

 流石に美少女だし、隠キャにはきついわ。

 見かけだけでも落ち着いていられるのは、門に入って成長したところがわかる大きな部分だ。


 それと面白いのは、竜二と三郎と悠大、俺が戦闘を教えている3人のうち、かなり優遇していて少し頭抜けていた悠大の実力を、竜二が追い抜いたことだ。


 まあ、竜二は攻撃系スキルだったし、悠大が索敵系スキルというのもありそうだが、それでも竜二は3人の中でも少し才能がある気がする。


(ただ……)


 どういうわけか、前の俺みたいに、悠大が強くなることに誰よりも必死なのは伝わってきていた。

 今度こっちにも事情を聞いてみるか。


「じゃあまあ、授業始めるぞ〜」


 また、いつもの日常が始まる。



〜〜〜〜〜



「で──どうしてこうなった?」


 時は16時33分。

 俺は今、メギドの20階にいた。


「オイ! 何やってんだもうちょい先行くぞ!」


「……早く」


「だからなんでお前らはついてきてんだよ!」


 そして俺の隣には凄まじいメンツが二人。


 “悪童”鬼塚蓮と、“神童”神崎美穂だ。

 なぜいるかというと、理由は単純。


 放課後スキルで遊ぶ(?)ためにメギドに来たところ、たまたま出くわした蓮と後をつけていたらしい美穂に「あ!? オイ、どこ行く! ちょっと付き合ってもらうぞ!」「……一緒に潜ってみる? 面白そう」と言われたからだ。


「てか、お前あのスキル……説明してもらうぞ?」


「うん」


「なんでだよ? 別にメリットないだろうが。てか損だろ」


 やたらスキルの詳細を聞きたがる美穂に続いて、蓮まで何やら聞いてくる。


「いやー実はさ。お前に近づくなって鬼童丸がめちゃくちゃうるさいんだよ」


「え、鬼童丸が? あのお前の鬼の……?」


「だが、能力も似てるし、お前に教われば俺もまだ強くなれるんじゃねえかと思ってな!」


 それは意外だな。まぁ、あんな鬼だからきっと鬼童丸も恐れてんだろな……

 悪鬼は自称最強の鬼だったし。


『なーにが自称だ。俺様は本当に最強?』


 だった……? まあいいや、そんなことより、付き纏われると色々気使わなきゃで面倒なんだけど……


「……私は、一番じゃなきゃいけないと、自分に誓った」


「「え???」」


 そこで、美穂がポツリと呟く。

 その声色に、何故か少し悲しみを感じる。


「一番を越えるには、一番を知ることが必要不可欠。だから私は、あなたについて知りたい」


「え、えぇ……ちょっと遠慮」


「「させ(ねえよ)(ない)!」」


「あ!?」


 とりあえずふんわりと断ろうとするも、ガシッと両サイドから手首を掴まれる。


(まあ正直……理解が追いついてないとこもあるけど、憧れの二人とパーティ組めるなんてすごいよな……)


 しかし、他の人と一緒に行動するなら一部行動制限が……


(まあ、いいか!)


 昔は妄想したようなドリームパーティだ。

 せっかくのチャンスだし、少し想像と雰囲気が違うが別にいいよな! 注目も集まりそうだし。


 なら、あいつとあいつとあいつ……あぁ、あとあいつも見せたくねぇなぁ……


「おい?」


「……?」


 考え込んだ俺を、二人が覗き込む。

 

「……ああ、じゃあパーティ組むって感じで」


「「言ったから(な)!!」」


「うおっ」


 二人が俺の腕を引っ張って、人のいない深層へと連れていく。


 少し適当に結成された“神童”“悪童”とのパーティ。

 数ヶ月前ならありえなかった奇跡が、実現した瞬間だった。

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