第60話 転校生


「えーこのたび、我々旧第四学園は第一学園となった!」


「「「「「うおおおお!!!!」」」」」


「……」


 月曜朝の朝礼。

 滝上学園長がそういうと同時に、新第一学園の生徒が雄叫びを上げるのを、俺は真顔で聞いていた。


「ちよ、どうしたんだ? そんな不満そうな顔して」


「そりゃ……まあ、聞いてりゃわかる」


「そして、そんなうちに転校してくる生徒がいる!」


 続いた滝上学園長の言葉に、生徒たちはざわめきだす。

 探索者高校での途中転校なんて、前例が一度もないのだから当然と言えば当然だが。


「では、挨拶を頼む」


 転校生が、雨天練習場体育館の檀に立つ。


「え……? あれって……」


「嘘……」


 生徒たちのどよめきが一層大きくなる。

 綺麗な金髪に、日本人を象徴する黒目。少し高めの身長に、痩せも太りもしてない引き締まった身体。


「……神崎美穂かんざきみほ。今日から第一学園に転入する」


 そう、彼女は紛れもなく“神童”、神崎美穂だった。


「うぇっ!?!? “神童”!?」


「ちょっ……あ、兄貴、恨まれたりしてないですよね?」


「兄貴から目を離すなよ……!」


「いや、お前ら“神童”のことなんだと思ってんの?」


 まさかの“神童”の登場に、一周回ってほとんどの生徒が口をつぐむ。


「じゃあ、今日から一年A組に行ってくれ。皆、拍手!」


 パチパチパチ……?


 と、未だどよめく生徒達の、まばらな拍手が体育館に響き渡る。


「それでちよは機嫌良くなかったのか……」


 まあ、“神童”は俺の憧れの人だったし、むしろ嬉しいことではあるはずだった。

 俺が気が乗らない理由は、昨日の打ち上げに遡る。


〜〜〜〜〜


「お前は……」


「……さっきぶり」


 大阪探索者協会長が去ってすぐ。

 店に戻ろうとした俺に、後ろから声がかかる。


 俺が振り返ると、そこには“神童”、神崎美穂がいた。


「“神童”……!?」


「……バカにしてるの」


「い、いや、別に……」


 なんであの“神童”がこんなところにいるんだ!?

 まさか俺に会いに来たとか? いや、そんなわけ……しかねえよな。うん。


「……見せて」


「え?」


 困惑している俺に、美穂が無表情に言う。

 “神童”は特段、感情がないとか言うわけでもないが、基本的には無口な正確らしい。昔テレビで見た。

 このぶっきらぼうな態度を見ると、どうやら本当だったようだ。


 ま、女探索者ってだけで少し前はバカにされるようなことがあったもんな……強気な方がいいに決まってるか。てかそれより。


「何をだよ」


「……さっきのスキル」


「あ?」


「“悪童”と同じスキルだった。珍しい」


「……【憑依】のことか?」


 美穂が頷く。

 いきなり何を言い出したかと思えば……急に俺にスキルを見せろとは。

 次戦う時のために弱点でも探る気か?


「なんのためにだよ。従う義理がない」


「……そう」


 というか、元第一学園長の言い振りから、こいつうちに来るんじゃなかったっけ? 絶対第一学園長がもう無理やりでも話通してそうだ。


「なら、戦って」


「はぁ??」


 俺が断ると、美穂が引き下がるどころかぶっ飛んだことを言い出す。


「さっきやったろうが! てか、お前まだ完全に感覚は戻ってないはずだぞ? しばらく安静にしとけ……」


「戦って!!!!」


「っ!?」


 避けようとした俺の言葉を遮った美穂は、本気の眼差しで俺の襟元を掴む。


「いいから! 私は……!」


「……悪鬼!!」


 俺はさっきから続く不愉快に、少し頭に来て、一瞬能力を発動した状態で美穂の土手っ腹を蹴り飛ばした。


「ガフッ──!!」


 美穂は超速度で電柱に突っ込み、電柱にヒビをいれる。


「……もう帰れよ。なんでそんな執着すんのか知らないけど、俺は一番ここを譲る気はないから。どうせ新第一学園うち来んだろ?」


「……っ」


 美穂は、悔しそうに唇を噛んだ。

 それを無視して、今度こそ俺は打ち上げに戻る……。


「──私は、一番じゃないといけないのに……」


「……」


 そんな時だった。

 テレビや噂、先ほどの試合も通して、初めて。

 

 美穂のを聞いたのは。


〜〜〜〜〜


(俺のせいか知らんけど、どちらにせよ相当めんどくさそうだな〜……)


 “神童”は“神童”だ。

 俺がその代わりを埋められるわけではない。

 国民には相当な数のファンもいるだろう。もし彼女が探索者を引退などしてしまったら、悲しむ人が多すぎる。

 美穂の事情は知らないが、俺のせいだった場合良心的にも名声や夢的にもまずいのは確かだ。


 それになにより、俺の探索者としての憧れであった“神童”に、俺がきっかけで探索者をやめて欲しくない。


(はー、考えがまとまらねぇ)


 これから第一学園、やることも多いし、これからどうしたもんか……


 まだ俺のせいと決まった訳じゃないのに、俺は憂鬱な気分になってため息をついた。

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