モンスター研究家と地下ダンジョン編

第59話 大阪探索者協会長


「いや〜まさか俺の【隠形おんぎょう】を見破るとは。普通協会長ギルマスが直接くるとは思わんだろうし、いっちょサプライズと思ったんだが……」


「まあ、勘ですよ」


 先ほどは、何やら不穏な気配を感じて調べてみたところ、協会長からの伝言とか言う男の後ろに協会長がいるのを知ってムッとしただけだったのだ。


「勘だぁ? 完全に気配を消すって言う効果のスキルなんだがなぁ……それに、何か部下の思考を読んでいたかのような……まあいい、宝晶、とりあえず試験を──」


「失せろ」


 いきなり打ち上げに押しかけて試験を始めようとする協会長に俺は、シッシッと片手で振り払う。


「今打ち上げ中なんで、明日行きますと部下にお伝えしましたが」


「……」


 俺が強調して言うと、大阪協会長は真顔で俺のことを睨む。


 緊迫感が、当たりを包み込んだ。

 そして……


「……そうだな! すまんすまん! 今はクラスメイト水入らずの宴中だったか!」


「う、宴……? まあはい、そうですね」


 な、なんだ、咎めないのか?


 協会長が、ハハハ、と笑ってあっさりと引いく。

 一瞬にして解かれた警戒感に、俺もつい敵意が霧散して柔らかい物腰になる。


「じゃあ明日待っているぞ! 場所は……」


「ああ、わかりますよ。大阪鉱物メギド支部ですよね?」


 探索者協会は、素早く正確な管理のためにダンジョンのすぐそばに作られる。

 大阪協会長代表のこの人が治めるのが、鉱物属性のゴーレムなどが出現するダンジョン、通称メギドとゴブスラダンジョンに隣接する大阪中央支部だ。


 俺はいつもゴブスラダンジョンに入り浸っていたし、大阪で最も大きな支部とだけあってここで昇格ランクアップ試験を受けたのだ。


 つまり、重吾さんから話を通されたこの協会長は、日本最大の探索者都市、大阪の代表者。


 そんな人に意見を通せるようになるとは……


(ほんと、この数ヶ月で一気に変わったんだなぁ)


「そうか、それもそうだな! ではまた明日」


「はい」


 協会長が踵を返す。

 それを見て、俺も店に戻ろうとして……


「……っ!?」


 気配を感じて、バッ! と向き直る。


 そこには、協会長ではなく、一人の美少女がいた。


「お前は……」


〜〜〜〜〜


「全く! 情けないにも程がある! 貴様らやる気あるのか!!」


「はあ……」


 元第二学園、すなわち新第三学園では、学園長の怒りの雷が轟いていた。


「惨めに降参する間抜けもいるわ、敵に教えを解く阿呆もおるわ、挙句“氷姫”も“悪童”も何してる!!」


「……すみません」


「チッ」


 “氷姫”とは、千縁が言うお姉さんこと水月由梨みなづきゆりのことだ。


 第二学園が卒業までに上級探索者に上がれそうな超優秀生徒として優遇していたところが露見し、更に試合後インタビューで由梨がサービスした【氷雪華】によるパフォーマンスと相まって、インターネットではすっかりトレンド入りしていた。


 『裏の支柱“氷姫”』と。


「まぁ、神童を倒したわけだし、お前ら二人が勝てなかったのは言い訳が着く。だが、前三人は何してる! 下級探索者ごときにやられて恥ずかしくないのか!!」


「っ……!」


 第二学園長は更に糾弾する。


「そもそも、本当に中級探索者になったのか!? 試合に出たいから嘘ついたんじゃ……」


「もう、やってられるか!!!」


「!?」


 第二学園長が更に当たろうとすると、一人の生徒から声が上がった。

 第四学園次鋒の盾使い、剛田と戦い、戦い方を教えた本田義道ほんだよしみちだ。


「俺たちが負けたのはなぁ……実力不足じゃない! だ!」


「!!」


「仲間のために自爆しようなんて、思いもしなかった! そりゃ、あんたみたいな勝手なやつの勝ちのために身を捨てられる訳が無い!」


「なっ、貴様……!!」


 本田が学園長に反旗を翻すと、他の出場者も次々に声をあげる。


「そうだそうだ!」


「いつも暴言ばっか吐きやがって!」


「ぐ、ぐぬぬ……卒業出来なくなってもいいのか!!」


「別に中級探索者なら、十分探索者としてやっていける。それに……第三に落ちた学園の箔なんて、興味無い!」


「きっさまぁ……!!」


 本田が言い放つと、周りの生徒たちが本田の後ろに控える。皆意思は同じようだ。


「もうあんたの身勝手にはついていけない」


 ここに元第二学園は、空中分解した。

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