第55話 千縁と第一学園長


「……」


「「「「……」」」」


 実況や審判、あとあれは……テレビ局員? の人たちは口を開けたまま固まっている。

 それもそうだ。

 学生最強……どころか日本の探索者全てで見ても最上位に位置する“神童”が負けたのだから。


 成長した“神童”を見にきた国の重鎮お偉いさんたちも、思いもしない結末に指先一つ動かせないでいた。


「勝者……勝者第四学園……宝晶……千縁……」


 大歓声の中、消え入りそうな声で審判は声を捻り出す。


「うおおおおおおお!!!!」


「すげぇ!! お前が学生最強だ!!」


「ばかな!! 第四学園だぞ!? これは大番狂せだ!!」


「ちよ!!」


 外部の、特に非探索者が大盛り上がりする中、ベンチから悠大親友が駆け寄ってくる。


「ん? ああ……終わったぞ」


「ちよ……お前……」


 悠大は何かを言いかけようとして……その言葉を飲み込んだ。


「……いや。なんでもない」


「そういうの気になるからやめて?」


「……今日は、パーティだなこりゃ」


 おお……パーティ!! 人生で一度も味わったことのない、俺の夢だ!


「そりゃ楽しみだな!!」


「そんなことより……」


「「兄貴!!」」


 悠大と舞台横で話し込んでいると、三郎たちがベンチから手を振っていた。

 

(あ……試合終わったから帰らなきゃな)


「兄貴ィィィ!!」


「うわっ! うるせえ! もっと静かにしろ!! 鼓膜破れる!」


「千縁君……やってくれたみたいだね」


 俺がベンチに帰ると、ベンチのみんなにもみくちゃにされた。

 見れば、加藤もいるし、花澤生徒会長も目を覚ましたみたいだ。……あと玲奈もいるな。


 玲奈はこんな時にもあまり浮かない顔をしている。

 俺が勝ったのが気に入らないんだろうか?


(せっかく俺が前代未聞の伝説を成し遂げたっていうのに……それは言い過ぎか? まあとにかくちょっとは喜べよ。仮にも親友だったのに)


 しばらくそうして皆に揉まれていると、閉会式のアナウンスが。

 学園長も戻ってきてる途中だろうし、俺たちもそろそろ一旦控え室に戻らなきゃな。


 トイレに行くために、俺が皆と離れた瞬間……一人の影が迫る!


「……誰だ」


(あれ……この人って)


「あんたは……」


「ああ……こんにちは、宝晶君。初めまして……ではないか」


 俺が振り向くと、そこにいたのは赤髪の美人……第一学園長、柏田美波かしわだみなみだった。

 美波という名前とは裏腹に、超強力な火魔法を操る、通称“ 業火の魔女”……彼女がなぜここに? いや、もしかして……


「ああ、そう警戒しないでくれ。まずは優勝おめでとう。私は君に少しだけ話があってきたんだ」


「しらねぇよ」


 俺の物言いに、第一学園長のまゆがピクッと跳ねた。


「俺があんたの戯言を聞くと思うか? どうせ勧誘か……ろくでもねぇことだろ」


「……」


 学園長のプレッシャーが増す。

 俺は無言で構えを取り、どこからともなく二本の短剣を取り出した。


「……ハハハハ!! いやーやっぱりそうだよな! 君は強いし、察しも良いときた!」


「……?」


 第一学園長は急にプレッシャーを引っ込めると、軽く笑って両手を上げた。


「……なんのつもりだ?」


「おお……こわいこわい……また人が変わったかのようなオーラを出すんだな、君は。さっきの鬼とはまた違った凄みだ……いや、そうじゃなくて!」


 学園長は手を差し出して、次の瞬間、とんでもないことを言ってきた。


「神崎を第四学園……ああいや、今は第一学園か? そちらに転校させてもらいたいんだ!」



「……は????」

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