第54話 憐れみ掠する地獄の王
「修羅のお目覚めだァ────ハハハハハハハハ!!」
『ッ!?』
千縁が両腕を広げて豪快に笑うと、その体から凄まじい魔力の波動が放たれる。
「キャアアアアアアア!?」
「うわっ!? どうなってんだ!!」
放たれた衝撃波は、観客の安全を保つための結界にヒビをいれた。
(嘘でしょ……?)
私が【月狼変化】を使って全力で攻撃しても結界にはヒビ一つ入れられない……あれは超高級魔道具なのだ。
それを、魔力を放った衝撃波だけで……?
『冗談じゃない!』
「アァ……俺様と戦うつもりか? やめといた方がいいけどなァ」
『ッ……舐めるな!』
実況も、観戦している人々も、皆が呆気に取られている中、“神童”神崎美穂だけが
だが、千縁は焦ることなく無造作に横に手を突き出すと、先程までのとは違った、赤黒く禍々しい三叉槍をどこからともなく取り出して担ぐ。
「わかんねェか? お前じゃ俺様には……敵わねぇ」
千縁がそういい、鼻で笑うと同時に、美穂はバランスを崩した。
『っ!?』
(どこに……っ!?)
たたらを踏みながらなんとか踏みとどまるも、千縁の姿が見えない。
ザッ────
突然耳元で聞こえたその音に、美穂はバッと上を向いて、言葉を失った。
「雑魚のくせに」
『〜!!』
黄金の人狼と化して強化された腕が、豆腐を切るよりも軽く振られた三叉槍によって切り落とされていた。
千縁はいつの間にか、美穂の頭の上に、それも後ろ向きに座っていたのだ。
(全く見えなかった……!)
『グアア!!』
そして背後に衝撃。
美穂の背後に放たれたサイドキックは、音すら超越してその骨を打ち砕く。
美穂は先ほどの千縁のように、闘技場の壁まで吹き飛んで血反吐を吐き崩れ落ちた。
(体が……動かない)
「神崎!!!!」
全く、見えなかった。何が起きたのかわからないが、ぼやける視界の端でさっきまで私が立っていたところで振り上げた足を下ろす千縁の姿が見えた。
(私は……)
“神童”“神童”と言われて期待されてきた。
日本最強じゃなければ私に存在価値はない。
最強じゃなければ、彼女に顔向けできない……!!
「きゅ、救急班!!」
『わた、しは……』
急いで試合を中断して回復術師を呼ぼうとする審判を残る片手で制し、美穂はフラフラと立ち上がった。
「アァ?」
『私は……!!』
片腕を失い、見るからに瀕死の美穂が立ち上がるのを見て、会場から小さな悲鳴が漏れる。
「神崎!! やめ──」
『私は、負けない──!!!!』
美穂は残る全力を注いで、決死の一撃を繰り出した。
ただでさえ死にかけの体に、スキルを三個発動させ、激痛が走る。
(それでも私は、ぜったいに、負けられ、ない……!!)
『ルアアアアアアアアア!!!!』
「……憐れだなァ」
美穂の身体から、黄金の魔力が噴き出す。
そんな美穂の決死の攻撃に、千縁は軽く頭を掻いてため息をついた。そして──
「だが……俺様は
──【虐殺】
『ァ──』
続く千縁のその言葉と同時に、美穂の残る三肢から感覚がなくなる。
切り落とされてはいないが、恐らく健を全て切られたのだろう。
「悪いが……同情なんざ、鬼には似合わねぇからなァ!」
(ああ……)
そして、ついに地に倒れ伏した“神童”に千縁は歩み寄って、耳元で一言。
「……まだまだだ。全然足りないぞ」
「……っ」
その言葉に、美穂は歯を食いしばり……フッと微笑んで気を失った。
「「「「「…………」」」」」
呆然と言葉を失っている会場の皆に向かって、【憑依】を解除した千縁が、拳をゆっくりと突き上げる。
「俺が一位だ」
会場は未曾有の
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