第53話 悪鬼降臨


〜〜〜〜〜


「なんだ……?」


 千縁がその一言スキル名を発した瞬間、ざわついていた会場がシンっと異常なほどに静まった。


「ちよ……?」


 千縁の親友、岩田雄大は初めて見る親友の姿に困惑を隠せないでいた。

 そしてそれは2人の舎弟……三郎と竜二も、第四学園の皆も同じ気持ちだった。


「岩田の兄貴……宝晶の兄貴は一体どうしちまったんですか……」


「なにか、とんでもなく不穏な気配が……」


 2人がかろうじて搾り出したその言葉に反応できる者は、いなかった。


(ちよ……無理はするなよ)


 会場が異様な空気に包まれる中、悠大は心の中で千縁の無事を祈るのだった。


〜〜〜〜〜


「バカな……」


 千縁が所属する第四学園の学園長、滝上由良は、気付かぬうちにそう漏らしていた。


(宝晶のスキルは超高倍率の【身体強化】なはず……まさか虚偽申告!?)


「滝上……なんだこの存在感は」


「あの子、なんのスキルを持ってるの!?」


「……私にもわからない」


 知っていたとしても敵チームにバラすわけないだろう、と由良は心の中で付け加えた。


(いや、宝晶は虚偽申告なんてしないような純粋な少年に見えた……いや、まさかあれも全て演技だったのか!?)


 いくら高倍率とはいえ【身体強化】であそこまで強くなれるはずがない、と由良は他に何かあるということに薄々勘付いてはいたが、まさかスキルそのものが違うとは思わなかった。


(いや……まさか……デュアルか!?)


 そう考えるのが妥当だろう。

 あそこまでの身体能力をスキルの強化なしに出せるのならば、それはもう超級探索者最上級……もしくは極級以上だ。


「……身体強化は副効果?」


「!!」


 第三学園長、みどりの言葉に、由良はハッとする。


(そうか……聞いたことがあると思ったら“悪童”の【憑依】と同じスキルか! まさかあのスキルを持っているやつを連続で見ることになるとは)


 千縁が手にするまでは確か、“悪童”しか所持者が確認されていない超レアスキルだったはずだ。

 あのスキルは、“悪童”のインタビューなんかで少し聞いたことがある。

 確か外部から力を借りる存在と契約をして初めて力が借りられるスキルで、契約者の能力に応じてスキル非使用時も多少能力が上昇するスキルだ。

 それに“神童”の【月狼変化】も軽い【身体強化】の副効果があるっぽいな。千縁と力で渡り合っていた美穂の【身体強化】倍率は平均やや上程度だったから、ほかの助けもあったことは必然だ。


「宝晶……」


(お前は一体、何を隠しているんだ……?)


〜〜〜〜〜


「【憑依】──悪鬼」


 俺……がそういうとの身体が激変する。

 耳下くらいの高さしかなかった黒髪は、肩下まである白髪はくはつに。

 頭部からは二本の赤黒い角が生え、瞳は真紅に染まっている。

 口を閉じているにも関わらず、大きくなった犬歯がその口からはみ出した。


『っ……、!』


 十数分の一秒すらかからず、一瞬で変化したの身体から大瀑布の如きプレッシャーが放たれ、観客のみならず【月狼変化】した美穂も息を詰まらせる。


 そして……ついには、顔を上げた。


「修羅のお目覚めだァ────ハハハハハハハハ!!」


 現世この世に、憐れみを持たない地獄の悪鬼が降臨する────






















────────────────────


 ついに登場しました、千縁の一人目の契約者。

 ちなみに【憑依】使用中は千縁のことはで表されます。

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