第50話 “神童”


「ラァ!!」


「フッ……!」


 試合開始後、俺はこちらから攻撃を仕掛ける。

 剣を振る……と見せかけて分解し、蛇腹剣にして背後から攻撃するも、いとも簡単に止められた。


「【破砕旋風】!!」


「【貫通】」


 美しい金髪が揺れる。

 俺は蛇腹剣を振り回し、円を描くように攻防一体の技を繰り出した。これもスキルなら発動中隙なしなのだが、模倣だから如何せん隙間があったりする。

 それに合わせて、“神童”神崎美穂は剣で突くようにスキルを発動する。


【貫通】……普通はこのスキルを持つ人は槍を使う。

 このスキルは、刺突に限って普段の数倍のものも貫通する程の威力を発揮するスキルだ。


 美穂はそれを剣で代用し、俺のガードをはじき飛ばした。


「疾っ!」


「甘い!!」


 俺は一気に伸ばした関節部を引き寄せる。


 ギィン!!!


 俺と美穂の剣が交差した。

 鍔迫つばぜる鋼鉄のつるぎが火花を散らす。


 俺と美穂が、お互い初めて全力でぶつかり合える相手に出会いヒートアップする反面、会場は静まり返っていた。


 特別席の人も、VIP席の人も、通常席の人も、ベンチの人も、そしてテレビで見ている人たちも、皆が手に汗握って言葉なく集中している。


「……これは驚き。ここまで勝ち進んできてまだこんな余力があるなんて」


「そうか? それほど苦労を感じる相手はいなかったが」


「……生意気」


 剣と剣がぶつかり合う音だけが響き渡る。

 5分以上過ぎたが、戦況は依然微動だにしなかった。


「ちっ……」


「本当に、強い……!」


(流石は神童だな……全然攻撃が通らない)


 ガンッと三度打ち合った後、俺たちはお互いに距離を離した。


「……あなたは、何者?」


「あ? 俺? んー」


 美穂はスッと剣を下ろすと、目を閉じて俺に問いかけた。


(今襲うってわけにはいかねぇよな……)


「……第四学園の劣等生、かな?」


「……」


 俺の言葉に、美穂は反応しなかった。


(なんだったんだ……?)


「……使わないの?」


「??」


「“悪童”を倒した技」


「おお……第一学園なのに第四学園うち見てたのか。」


 美穂が言うのは、【虐殺】(模倣)のことだろう。


「まあ、別に使ってもいいけど……」


「……私は」


 美穂は突如、俯き目を伏せたまま剣を持つ右腕を突き上げた。


「まだ、スキルを隠してる」


「……!?」


 なんだ?

 その言葉と同時に、美穂の雰囲気がガラリと変わる。

 どこか不思議で、神秘的だった美穂の気配は、一瞬にして牙を剥いた狼のような、鋭い気配に変化した。

 そしてすぐ、その感覚が間違いじゃないことを知る。


「……何!?」


「まさか……“神童”はまだ本気じゃなかったのか!?」


「兄貴……!!」


 動揺する外野をよそに、美穂の骨格がバキバキと変わっていく。

 そして……


『【月狼変化ルナティック・フォーム】』


 オオオオオオオオン!!! と咆哮が轟いた。

 美穂の姿はわずか1秒程度のうちに1.5倍ほど膨らみ、金毛の美しい人狼へと変化を遂げる。


『絶対、逃さない』


「はは……“神童”様が本気になったってか」


 想像もしなかった展開に思わず笑ってしまう。

 【貫通】【身体強化】の二個持ちデュアルだって聞いてたけど、そりゃ今の俺に【身体強化】だけで並べるわけないよな。

 

(まさかの三個持ちトリプルかよ……)


 俺は再度変形剣を握りしめ、四肢に力を入れた。

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