第49話 決勝戦開始


「……」


「神崎さん……、出番かも」


 第一学園ベンチにて。私──“神童”、神崎美穂は試合を眺めていた。


(さっきの……デコピン? かなり速かったし、凄まじい威力だった。でも今は使ってない)


 今はうちの副将と奴……千縁が戦っている。

 だが今の試合では千縁は先ほどのスピードも、一撃で試合を終わらせるほどのパワーも見せていない。


(恐らくは、制限があってそんなに使えない)


 と言っても、今上級探索者を一方的に押しているが。うちの副将ですら耐えるのがやっとって感じだ。


 たとえ“悪童”であっても上級探索者三人を相手取るとかなり疲弊するはずなのに……そんな様子は見えない。


「あいつ、第二学園戦を一人で勝ちに導いた後にこれですよね?」


「もう、ほんとあいつ何者なのよ!? 第四学園でしょ! 第一学園うちが一人に押されるなんて、ありえない!!」


 指揮を任されている私の先輩も思わず絶叫するほどに、彼は強かった。


(でも、一体何故、どこからこんな強者が……)


「……出番」


「あっ……そうみたい。……神崎さんは、負けないよね?」


「……私を信用してないんですか」


「いっいや、そういうわけじゃ! えっと……圧勝しちゃって!!」


 先輩はアセアセと両手を振る。別に怒ってるわけじゃないんだけど……。

 まぁ、この学校でダントツに強いのは私だから。


「じゃぁ、勝ってくる」


 今しがた、副将が負けた。学園長が拳を振るわせているのがわかる。


「うん……いってらっしゃい」


 私が闘技場に向かってまっすぐに歩くと、会場が爆発した。

 そう錯覚するほどの歓声が、私を出迎えた。


「ついに来たぞ!!! ドリームマッチ!!」


「第四学園!! この調子のまま“神童”まで超えちまえ!!」


「ばか! あの“神童”様だぞ!! ここまでだ!!」


(……私が負けると思い始めてる人がたくさんいる……不愉快)


 私が定位置に着くと、対戦相手──宝晶千縁が少し緊張した顔で視線を逸らした。


(……?)


「さあ!!!! みなさんこの時をどれほど待ち侘びたでしょうかッッ!! 今日第四学園が勝ち進んでから、ずっと夢見たこの対決!!!! ついに宝晶選手が“神童”、神崎美穂と相対するー!!!!」


「「「「「「わああああああああ!!」」」」」」


「ちよー!!!! 勝てぇぇぇぇ!!!」


「負けるな一年生ー!!!」


 第四学園サイドからかなりの歓声が聞こえる。ここまで辿り着いて興奮状態なのだろう。


(でも……ここまで)


 私が落ちかけた第一学園の名声を取り戻す。


「泣いても笑っても、これが最後の決勝戦!!!! 第四学園は大逆転を起こせるか!?!?」


「なあ……一個言いたいことがあるんだが」


「……何?」


 千縁が私に、こそっと言った。


「昔から憧れててさ。でも、俺は今日お前を、超えてみせる」


「……」


 あっあとで握手お願いな、と付け足した千縁は様々な武器に変形する剣を構えた。


(……とても強そうには見えないけど)


 しかし、私も最初は同じことを言われたものだ。女性探索者は強い人が少なく、更に超級に達した4人のうち3人が学園長に就任しただけあって、協会ギルドでは特に女性は舐められたものだ。

 まぁ、目にもの見せてやったが。

 どちらにせよ……


「私は、負けない」


「それでは……学園対抗祭決勝戦─────開始!!!」


 ついに、決戦の火蓋が切って落とされた。

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