第45話 加藤の決意


「流石に強い! 第一学園!! 一気に第四学園の次鋒を一人で下してしまったぁぁ!!」


「加藤……無理しないでね」


「ああ」


 そう言ったのは、俺の幼なじみでもある金城玲奈だ。

 学園長が特別席に呼び出されるため、彼女が代理指揮官となったのだ。


 なぜ一年の彼女に任されたのかは定かではないが……恐らくうちの主戦力が一年生の加藤と俺だから、というのもあるだろうな。


(玲奈か……そういえばあの事件夏休み前以来一度も遭遇しなかったな)


 俺にとって玲奈は、なんというか、自分勝手な存在だ。

 ランダムバッドイベントみたいなもんか。


「……」


「続いて第四学園中堅、一年中級探索者の加藤俊介だァァァ!」


 当然と言えば当然なのだが、第一学園は先鋒ですら上級探索者だった。その先鋒によって、白城しろき先輩と剛田先輩は30秒持たずにやられてしまった。それに、花澤先輩はいくら治療が完了したとはいえ、自爆なんてしたもんだからまだ目が覚めない。恐らく、加藤の次は俺だろう。


(五人抜きしなきゃいけねえぇかな……)


「第四学園なんぞがどうやってここまで勝ち進んできた。どう見てもお前らはレベルが低すぎる」


「……」


 第一学園先鋒の高田の言葉に、加藤は静かに拳を振るわせた。


「大将が強いにしても、限度がある。うちの“神童”かって一人で勝ち抜けばかなり疲労するだろう」


 高田は遠回しに、今の俺を倒すのは簡単だと言っている。


「……」


 それに対し、加藤は何も言わなかった。


「試合開始──」


「【縮地】!」


「ッ!」


 審判が試合開始と言うが早いか、高田は高速移動スキルで魔術士の加藤に接近する。

 加藤はそれを、すんでのところで受け止めた。しかし……


「中級の割にはやるな」


「……グッ、ハッ!!」


 連続で発動する【縮地】による高速攻撃に加藤は対応しきれなかった。


 高田の槍が加藤の土手っ腹を貫く。


(そろそろ準備──)


「雑魚が」


「……それは、どうかな?」


「?」


 しかし、そこで加藤は思いもよらぬ行動に出た。槍に貫かれたまま、両手に赤い魔力を貯め出したのだ。そして、大声で叫ぶ。


「先輩が身を捧げたっていうのに……千縁が一人で頑張ってるのに……俺がこのまま負けて、いられるかッッッ!!」


「お前、まさか──」


 加藤のに、観客席が盛り上がる。


(……!? なんのつもりだ!?)


「あんまり俺たちをバカにするなよ!! お前らにとっちゃ、俺たちは雑魚かもしれないけどなぁ!! 俺たちかって誇りを持って、戦ってるんだよ!!」


「ちっ……黙れ!」


「「「そうだそうだ!!」」」


「第四学園踏ん張れええええ!!」


「偉そうな第一学園に勝っちまえよー!!」


 会場が沸きたつ中、俺は一人鳥肌を立てていた。


 急に、一体どういう風の吹き回しなんだ?


 加藤がそんなことをいう人間じゃないのは知っている。最近改心してたかもしれないが、いくらなんでも急にこんなことを言い出すとは思ってなかった。

 得体の知れない混乱が千縁を襲った。

 そして、加藤は高らかに叫んだ。


「くらえ……【エクス──」


「クッ……!?」


「プロージョン】!!」


 【エクスプロージョン】。上級探索者が好んで使う、爆発魔法だ。基本的にはその性質から多数戦で使われるが、今のように密接した状態で使えば……


 当然、共倒れの必殺技と化す。


 加藤が両手のひらを高田に向けると同時に、高田は加藤を貫通して抜けない槍を諦めて、クロスガードの姿勢をとる。


 そして……


「グッ……!? なっ……!」


 加藤の手には爆発ではなく槍が生まれる。そして、胸の前で腕を交差させている高田の右目に、【フレイムランス】をぶち込んだ。


「グアアアアアアア!?!?」


「「「「「……????」」」」」


「そ、そこまで!! 第四学園の勝ち!!」


「な……まさかフェイク!?」


「卑怯な!!」


 審判が急いで回復魔術師を呼んで、宣言する。

 その声に、加藤は俺達の方へ帰ってきて、呟いた。


「今は騙すしかなくても、いずれ正面から勝って、お前に追いついて見せる。だから今は……。任せた。一人倒したんだから、残りは当然勝てるよな?」


「なに、鳥肌立つんだけど」


 俺は加藤の言葉に呆気に取られた。

 加藤は皆の批判を買うような卑劣な行動で第一学園先鋒を下した。

 これを見た人は皆、加藤はずるいやつだ、というだろう。


「……まあ、お前の意思は伝わったが」


 しかし、加藤は自分の評判を気にせず、世間体を捨ててでも一人を落とした。

 それは他の皆にとっては卑劣でも、チームを勝たせるという決意でもあった。


 俺が五人を相手どるのは難しい、と配慮してのことだろう。

 逆に言えば、一人でも減らせば俺が“神童”を倒せると信じているようだ。


 鳥肌は立ったが。いやまじで。


 因みに加藤のこの鳥肌行動が、対抗祭で爪痕残したいとかいう唯の厨二病故と知るのは、遥か先のこと。


「……ったく、んな勝手なことしなくても全員俺に任せりゃよかったのに」


(しかしこいつは俺も、いっちょやんなくちゃな)


 自然と口角が上がった。


 俺は先輩が出場できないため、四人目で大将として立ち上がる。


「ねっねえ、ちよ」


「ん?」


 そして会場スタジアムに行こうとすると、玲奈が俺を引き留めた。


「なんだ?」


「その……」


 玲奈は少し口ごもった後顔を上げ、いつぶりか真っ直ぐに俺の目を見て言った。


「終わったら、ちょっといい? 聞きたいこととか……あるから」


「やだ」


 俺は玲奈の言葉を無視して、そのまま会場へと降り立ったのだった。

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