第44話 学園長たちの思惑


「さあ! ついに学園対抗戦も決勝! 今年第一学園が迎え撃つのは、なんと仰天! 怒涛の勢いで“悪童”をも下した、第四学園だァァァァァァ!!」


 ついに始まった決勝。ベンチのみならず、会場の全員が緊迫に包まれていた。

 事態の程は、報道ヘリが急遽派遣されたことから推してしるべし。


「今年の新星!! “神童”率いる第一学園は突如現れた“革命児”率いる第四学園にその権威を見せつけるかッッ!? 第四学園はまさかの特大下克上を決められるのか!?」


 実況が興奮して宣伝する中、決勝の舞台ということで特別席に集められた学園長達は互いに火花を散らしていた。


「ふん! 全くつまらない!」


 そう言ったのは第二学園学園長、康二こうじ。ちなみに、四学園の中で唯一の男学園長だったりする。あと一番年長者だ。


「由良? まさかこんな新入生がいるなんて……第三学園はすっかり取り残されてしまいましたわ。なぜ教えてくれなかったのですか?」


「滝上、なぜこんな逸材が第四学園に? うちに志望がなかったということは恐らく、第四学園が第一希望だったのだろう?」


 第三学園学園長のみどりと、第一学園学園長の美波みなみは第四学園長である滝上由良に問いかける。

 声からは圧を感じられないが、目が据わっている。


「……宝晶は全学校に届けを出したはずだ。うちにきたのは最後だったぞ」


「何?」


「じゃあ彼は目立った特徴もなかったのに、この短期間で“悪童”を超えたって言うわけ? 彼も超級に近いのだが?」


「おい! うちの鬼塚にかって理由があってだな……」


「「敗北者あなたは黙ってて!!」」


「うっ」


 女性陣の中、一人佇む第二学園長の姿はなかなか、哀愁漂う姿に見えた。


「それで……スキルはなんだったのだ?」


「……入学時、開花してなかったはず」


「「「何!?」」」


 由良の言葉に、他学園長はバッと由良の方を向いた。

 由良は居心地悪そうに身を縮こめる。


「……そんな急に成長するなんて考えられない。どんなスキルが……?」


「彼は本当に学生? 外部から違法に引っ張ってきたんじゃないの?」


  第三、第一学園長が疑いの視線を向けた。


「バカ言うな! 宝晶は毎日、誰よりも努力していたんだぞ!」


 滝上由良は知っていた。時々探索者協会ギルドから聞いていたのだ。「お宅の宝晶千縁という生徒は毎日毎日長時間潜ってますけど大丈夫なんですか?」と、心配の電話を。休日は基本24時間以上滞在していたらしい。

 千縁が学長室にきた時にパッと名前を思い出せたのはそのせいだった。


「あら、失礼しちゃったわ」


「すまなかったね。でもやはり“神童”に逸材であるのは確かだ。是非うちに来てもらいたいところだな」


 第一学園長の言葉に、由良は拳を握りしめた。


「……半年以上前に入学した生徒を引き抜くつもりですか?」


「いやいや、何も引き抜くわけじゃない。ただ、彼が来たいと行った時には席を開けておかなければいけないと思ってね」


(引き抜きとなんら変わりないではないか……)


 まあでも、確かに千縁は第四学園には見合わない逸材だ。ここでもし第二学園、第一学園になって予算が増えたとしても、器具やアイテムはすぐに取り揃えられるものではない。彼のためには、第一学園に移籍するのが正解とも言えた。


「……由良?」


「……始まるぞ」


 翠の問いかけに、由良は反応しなかった。

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