第41話 “悪童”、決着


 俺の構えに、突進途中の鬼童丸がこれでもか、というほどに目を見開いた。


 【憑依】は、確かに対象の人格を大幅に引き寄せ、性格すら変貌させる。だが、あくまで主導権はスキルの保持者、この場合は鬼塚だ。

 この突進も、鬼塚が攻撃の意思を持って行ったのだろう。

 だが、どこかでこの構えを見たことがあるのか、鬼童丸は俺と鬼塚が接触する間際、目を見開くと同時に無理やり急停止して逃げようとする。


 だが、それはあと少し、致命的なまでに遅かった。


『蓮!! まずい!! あれは、あいつは──!』


「あ!?」


 鬼塚がそう発し薙刀を振り上げると同時に、俺は三叉槍を右肩のあたりから大きく弧を描くように動かす。


「──【虐殺】」


「──あ、?」


 ザンッッッ!!! と荒々しい攻撃に反して美しい音がした。

 同時に、鬼塚は膝をつき、何が起きたのかと自分の体を見下ろして……気づいた。


 今の一瞬で、俺は鬼塚の両手両足の付け根の関節を斬ったのだ。


 【虐殺】。俺が最初に入った地獄の門で出会った、使カウンターのような技だ。

 本来攻撃スキルであるが、最大限に威力を発揮するのは反撃の時なんだよな。

 鬼童丸も、どこかで見たことがあり、その恐ろしさを知っていたのだろう。全力で体に急ブレーキがかかっていた。しかし、一歩遅かったようだ。


「ぐっ……く、そ……」


「……終わりだ」


 俺は崩れ落ちた鬼塚に三叉槍を突きつける。


「まだだ……!! まだ……俺は……!!」


 鬼塚は無理矢理でも立ちあがろうとするが、足から血を吹き出して失敗する。多量のダメージからか、【憑依】の効力もかなり薄くなってきたようだ。


「無駄だ……それじゃもう、治療するまで四肢は使えない」


「くそ……くそっ!! こんな、ところで……!!」


 鬼塚はそれでも諦めない様子で、立ちあがろうとするも、手も足も使えないのにそれは不可能なことだ。


「審判」


「……え、あ! こ、この勝負は……」


「待て! 俺は、……!!」


 どよめく会場に、固まる審判。

 仕方なく俺が審判に声をかけると、審判は意識を取り戻したかのように宣言する。


「第二学園大将、鬼塚蓮戦闘継続不可! よって第四学園大将──」


 そこで審判は深呼吸をし、俺の名を呼んだ。


「──宝晶千縁の勝利ッッッッッ!!!!」


「「「「……」」」」


 一瞬皆が固まる。そして……


「「「「「「「うおおおおおおおおお!!!」」」」」」」


 一泊遅れ、大歓声が響き渡った。


〜〜〜〜〜


「ごめん、ちょっといい!?」


「ん……はい、どうしました?」


 私……神崎美穂は、興奮した先輩の声に、“第一学園大将控え室”とある扉を開ける。


「ちょっと! 聞いた!? 今の試合!!」


「どうしたんですか? 確かになにかすごい歓声が起きてましたが……時間的に第三学園対第四学園でしょうか?」


 私は、もしかしたら第四学園が第三学園に勝ったりでもしたのか? それなら……と少し驚き、問う。ここ10年間は序列が変わってないからだ。


「違うの!! 今はまだ第二学園対第四学園よ!」


「……え?」


 第四学園がかなり粘ったということ? ……いや、この場合は第二学園が遊んでいた、という可能性の方が高いか。


「それがねっ、それがね!?!?」


「落ち着いてください」


 あまりにも興奮し、少し混乱すらしているような先輩に、私は一度落ち着くように言うが、その後の言葉を聞いて今度は私が落ち着きを保てなくなる。


 それもそのはず、次の先輩の言葉は……


「第四学園が、第二学園に勝ったのよ!!!!!!」


「……は?」


 だったからだ。

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