第40話 鬼童丸との激闘


「……何者なんだ、お前は!」


「どうした? 鬼童丸。散々イキリ散らかしてたくせにまだ一般人一人倒せないか?」


「ほざけっ! この猫かぶりが!」


 俺の挑発にキレながらも、鬼童丸は多彩な攻撃を繰り出し続けていた。

 斜め斬りと見せかけてフェイント突き、それすらもフェイントとする回転斬り。

 半分斬りかけているのにも関わらず、鬼の常識を超えた膂力によって無理やり軌道を反対に変える変則斬り。


 そのどれもが並の上級探索者を一瞬で溶かすほどの超火力を誇っている。


 それを俺は交わし続け、少しづつだが攻撃を入れていく。

 その事実に腹が立つのか、鬼童丸は一層ブチ切れながらも俺と対峙する。

 流石に、キレさせても隙を見せたりはしてくれないが、短気である鬼をキレさせるのは楽しい。


 俺たちの、というより俺の予想を遥かに超える善戦に、むしろ少しづつ押してる様に、観客もベンチの選手も皆がザワザワ、と、歓声というよりどよめきの声を挙げる。


 まさか……あの“悪童”ですら……

 何者なんだ? あんなぽっと出の奴が“悪童”と同等以上なのか?

 もしかして“悪童”は何か全力を出せない理由があるのか? それとも、弱くなってしまったのか?


 といった会話が、そこかしこから聞こえる。

 魔力によって大幅強化された俺の聴覚は観客席の声も一部拾える程だが、鬼童丸を【憑依】している今なら、鬼塚の耳にも聞こえたはずだ。


 鬼童丸は自分が舐められていると分かると、顔を更に赤く染めて、苛烈な攻撃を繰り出す。


「雑魚のくせに……!!」


「【螺旋拳】」


「……しまっ!」


 【螺旋拳】のように、本来隙がある接近スキルを当てるのに一番いいのは“隙をなくす”ことだ。そのため、俺は二の腕で槍などの武器を押さえることで、腕を腰まで引き絞るモーションと兼用している。


 まあ、そこまでわかってるわけではないだろうが、先ほどの試合でも使っていた時に武器を押さえてバランスを崩して放ったことから察し、薙刀を刺す動作をした鬼童丸は「しまった」という表情を浮かべた。


「ガッ……!」


 鬼童丸はかなりの距離ぶっ飛ぶ。が、またすぐに起き上がると再び全速で突っ込んでくる。


「な、な、何が起きているんだッ!? 目にも止まらぬ高度な戦いがくり広げられているッ!? とても学生大会とは思えないィィィ!!」


「テメェッ……! なぜだ……なぜ攻撃が、当たらないッッ!!」


 戦い続けて10分ほど。

 鬼童丸に何度か攻撃を当て、かなりのダメージを与えたはずだ。

 それに対して俺の方は、無傷とは言えないがかなり傷が少ない。堅実に攻撃を防ぎ続けていたからだ。


 鬼童丸が怒りと焦りを交えた声で叫んで攻撃を繰り出してくるが、ここで俺は初めて、攻勢に回った。


「らあッ!!!!」


「……チッ!!!」


 お互いに凄まじい力で武器をぶつけ合い、両者その体を吹き飛ばされる。

 そして距離ができた時、俺は鬼童丸にこちらから話しかけた。


「なあ、もう終わりにしようぜ?」


「ああ!?」


 そういって俺は武器を三又の槍……三叉槍さんさそうに切り替え、足を大きく開いて構えた。


「舐めるなよ……俺様はまだまだ……これからが勝負だッッ!!」


 そう言うと鬼童丸はこちらへ突進し──



 ──勝負は、一瞬でついた。

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