第39話 VIP席の混乱


「何が、何が起きているッッッ!?!?」


 実況の上級探索者である鏡秀かがみしゅうは、あまりにも予想外な、そして予想以上に対等に戦う二人をみて、仕事中なのについつい口からそんな言葉がこぼれる。

 実況っぽくも聞こえなくはないため、横の理事長らは何も言ってこない。……いや、例え仕事を忘れて見入っていたとしても、この方達も絶句して何も言えないだろう。


 最初、この実況席&VIP室となっているこの場にいる全員が、“神童”に“悪童”は勝てるのだろうか、や今年はどんな面白いバトルが見られるか、との話しかしていなかった。

 だから当然、第四学園の先鋒が秒殺された時、皆ああ、当たり前だな、と流して見向きもせず、雑談に花を咲かせていた。

 

 確かに次鋒が善戦をしたのは皆驚いたが、相性というのもあっただろう。その後も中級探索者がいたことに少し驚いたりもしたが、それでも相手と比べれば同格以下。実際三人も倒せずに大将となった。


 皆、今年の第四学園は善戦しましたねぇ、や流石黄金世代ですねぇ、などと笑顔を浮かべていた。


 だが、の登場で、全てが変わった。


 一年にして中級探索者。第二学園ですら下級探索者で入学することもそこそこあるというのに、一年中級探索者は第四学園にもう二人目だ。


 それほどの逸材が第四学園に揃っていることにも皆驚いたようだが、それ以上に驚いた……いや、恐怖を感じたのはその実力だった。


 初めは誰もが、中級なりたてあたりだろうと、倒せても一人だろうと鷹を括っていた。


 だが、あろうことはは、上級探索者でも手を焼く、使い手もそこそこいる【綱身化】した三年中級探索者の和田の腕を当然の如く切り飛ばし、のだ。


 それは、圧倒的な力の差に相手が絶望したことに相違ない。

 蛇腹剣など、ダンジョン化の影響で、そう、実現しただけ。というだけのロマン武器のようなものを使いこなしており、更に変形させ、さまざまな武器種を扱ってすらいるのと同義だ。


 我々は皆言葉を失い、なんとか捻り出すようにしての勝ちを宣言する。


 そして、は立て続けに上級探索者間近である副将、水月由梨すらをも圧倒した。


 全く訳のわからないまま、私はを称賛することしかできなかった。


 ついには“悪童”と対峙する。

 我々の間にもはや言葉はなく、ごくりと生唾を飲み込む音だけが間々聞こえるだけだった。


 あの【鬼化】した“悪童”、上級探索者上位の力を持つ彼と対等に戦う

 もしや彼なら、この日本の黄金世代にさらなる旋風を巻き起こしてくれるのではないだろうか。

 

 疑問は無限に出てくるが、我々は今、彼が見せる可能性に目を奪われているしかなかった。

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