第38話 もう一人の【憑依】者


 【憑依】……な。今まで聞いたこともなかったスキルだが、別に俺だけのユニークスキルとか聞いたわけじゃないし、そもそもこの世界にユニークスキルなんてものが存在するかどうかも不明だ。他に持っている人がいてもおかしくはない。

 しかし、こんなところで【憑依】持ちと戦うことになるとは思わなかった。

 俺は、門を出てから一番警戒を高める。

 

 鬼塚の見た目はグググっと変わっていき、オールバックだった茶髪は、前髪もある黒髪ショートヘアに。爪……いや、指全体が攻撃的に尖る。牙も鋭く、額には一本のツノ。

 そしてその眼光は、先ほどまでよりも余程凶悪だ。


「ハッハァ!! 鬼童丸様の降臨だ! フハハハハハ!!」


 1秒ほどで変貌を遂げた“悪童”鬼塚に、観客席は湧き上がる。

 去年も見たんだろうな。「ついに来たぞ!!」という歓声が多く聞こえる。

 第二学園ベンチでは、明らかに安堵の表情を浮かべるものが多数だ。


「ここでついに来たー!! 中学探索者一位決定戦で見せられた【憑依】だァァァァァァ!!! “鬼”が現世に降臨するー!!」


「「「「うおおおおお!!」」」」


「千縁ぃー!! 負けるなァー!!」


「頑張って、宝晶くんっ!!!」


 うちのベンチからも全力の応援が届くが、完全にアウェイだな、こりゃ。


「オィオィ……どうやら俺様の勝ちが確信されているみてぇだぞ? ハハハ!」


 鬼塚……いや、は、俺に向かって勝ち誇ったかのような表情を見せる。

 【憑依】……自分の体に他の何かの力を借りて宿すスキルだ。

 そして、このスキルを持っていると……宿す人格、つまりこいつの場合は鬼童丸に。つまり似た性格になるというわけだ。

 当然、実際に【憑依】すれば、更にその傾向は強くなる。


「さぁ……こっから勝つ俺にとっては最高のパフォーマンスだが?」


「あぁ?」


 俺が返すとほぼ同時に、鬼童丸は俺の首筋目掛けて薙刀をふりおろす。それを、通常の剣に戻った俺の武器で受け止めた。


(やっぱ、鬼の力は半端ねぇな……!)


「テメェ……どんな怪力なんだ? 俺様の力を真っ向から受け止められたのは初めてだ」


 真っ向から受け止めた鬼童丸はかなり驚いた様子だったが、門をクリアするたびに強くなっていった今の俺なら、真っ向から受け止められないこともない。

 それにこいつは……やっぱよりは弱いみたいだからな。


「テメェが力不足なんだよ。小鬼が」


「テメェ……!!」


 俺がニヤリと笑って侮辱の言葉を返すと、鬼童丸はブチギレたようだ。


「……地獄を教えてやる」


「結構だ。なんなら俺が教えてやろうか?」


 再び、激闘が始まった。

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