第37話 “悪童”


「……来いよ」


「じゃあ、行かせてもらう」


 鬼塚は俺に向かって、クイクイッと指を曲げて挑発する。

 なので、俺は地を割る勢いで突っ込んだ。


「【爆地】!」


「もう見たぜ、それはなぁ!」


「……!?」


 そして攻撃の寸前、踏み込んだ足に力を込めてバランスを崩そうとするが、鬼塚はそれを見越したかのようにジャンプする。

 空中でどうやって避けるんだ? と俺は興味を混じえて蛇腹剣を一閃した。

 俺の伸びた剣がジャラララッと言う音と共に鬼塚の足に迫り……


 鬼塚は、刀身の間接部を蹴ってそれを交わした。


「ッとぉ、珍しい武器だが、対処できないことはねぇなぁ」


「一回見ただけでそこまで……さすがは天才だな」


 普通、一度見ただけで対処がわかるなんてことは少ない。俺は門で死ぬほど修行したが、才能があったわけじゃない、一目で対策、ましてやコピーなんてできなかった。


(さすがは日本学生探索者ランキング2位だな)


「じゃあこっちの番だぜェ!?」


「ちっ……!」


 今度は鬼塚が超速で俺の目の前に迫り、その手の薙刀を振るう。

 ガンッ! ガンッ! と二連続でサイドから襲いくる斬撃を俺は剣をしならせて弾き返し、至近距離で鞭の如く蛇腹剣を振り上げた。


 だが、それを鬼塚は薙刀を横にして防ぎ、その反動で距離を取る。


「それは……っ」


「ああ?」


 そして、鬼塚の構えを見て、俺はつい声をあげた。

 それは、よく見れば少しお粗末な点があるものの……


 間違いなく


 左手は鉤爪の如く顔の前で曲げており、薙刀を持つ右手を胸あたりで左手と交差する。

 かなりの上段構えである。


「いくぜぇ……!!」


 鬼塚はそのまま少し左手を下げながら走り寄ってきた。

 だが、この顔面が少し開くのは罠であると、俺は知っている。


「……っ」


「どうした!? ビビっちまったか!? あぁ!?」


 鬼塚の猛攻が始まる。なんとか防ぐも、流石に手強い。

 反撃に移れない俺を見て、鬼塚は更に威力の高い攻撃を繰り出そうとして……


 急に速度を上げた俺のサイドキックに、まるで劇場での再現の如くぶっ飛ばされた。


「がっ……ハッ!!」


「鬼塚くん!!」


 特に鬼塚は隙を見せていない。流石一年にして上級探索者の天才、ほとんど隙を大きくせずに、更に威力の高い攻撃を繰り出していた。

 だが、俺は最初から全速で動いていたわけじゃなかったのだ。

 そのため、鬼塚から見れば一瞬で俺が加速したように見えただろう。薙刀の射程内に入り込んだ俺のサイドキックは、何かを砕いた感覚があった。


 、を。


「……あー、ったくその蹴りは意味わかんネェ威力だなほんと……だが、今回は前のようにはいかねぇぞ?」


「……ダンジョン鉄、か」


 鬼塚が服を捲ると、大きくヒビの入った鉄に似た鉱物板があった。

 鬼塚はそれを投げ捨てる。


「全く、ダンジョン鉄の鉄板にヒビ入れるとか……こりゃあ俺と同格程度の必殺能力を持つって認めるしかねぇようだなァ」


「……余裕そうだな」


 俺は、ぶっ飛ばされたと言うのに余裕な鬼塚を見て訝しむ。

 いや、待てよ? こいつは、確か……


「俺はまだスキルを使ってねぇ」


 その言葉に、観客たちとうちのベンチが息を呑んだのがわかった。

 ……そうだったな。だって、こいつのスキルはおそらく……


「こっからは正真正銘、全力だ……いくぞ、【憑依】──鬼童丸!!」


 鬼塚がそう言うと同時に、その姿が変わっていく……。


「こっからが、戦いの時間だ」


 その姿はまるで、本物の“鬼”のようだった。

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